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委託先を特定せよ~久保田早紀『夢がたり』 [国内盤研究]

さて、考レコ学クイズ12の解答編である。

ブログのコメント欄で反応があることは期待していなかったが、TLでの反応もごく僅か・・・
みんなお盆休みが終わって忙しいのか、難問すぎて手が出ないのか、そもそも1980年頃の国内盤事情の込み入った話になんか興味がないのか、あっ、全部か(笑)

それでも、個人的には、ヒジョーにおもしろかったので、めげずに解答編をアップするのである。

選択肢は次の4つだった。

1 東芝EMI
2 東洋化成
3 日本コロムビア
4 ポリドール

日本コロムビア以外は、自社工場を持たないワーナー・パイオニアがプレスを委託していた先として紹介したことがあるので、そのあたりの記事を思い出していただければ、各社の特徴がわかるかと思う。
とりあえず、下記のまとめ記事をどうぞ。

https://sawyer2015.blog.ss-blog.jp/2021-12-16


ワーナーの例から考えて、東芝EMIとポリドールは、委託を受けてプレスする場合でも、送り溝に自社プレスと同じPMを刻印する。
出題に使ったレーベル画像は、送り溝の刻印もすべて判読できるように撮影しておいたので、確認してみよう。


20220816-3.jpg


12時にメインのマト25AH-919A1があって、6時にマザー/スタンパー1 H 1があるのがわかる。
3時のはJISマークだが、9時のは予備知識がないとうまく判読できないかもしれない。
とはいえ、少なくとも1文字であることはわかる。

東芝EMIのPMは「年(数字)―月(数字、ただし10月~12月はX~Z)」の形式だから、『夢がたり』の発売月1979年12月なら9ーZになる。
出題のレコードが発売月プレスかどうかわからないにせよ、9時の文字が東芝EMIのPMでないことはわかる。

ポリドールのPMは「月(アルファベット)年(数字)」の形式だから、1979年12月ならL9になる。
少なくとも2文字になるから、9時の文字は、ポリドールのPMでもない。

以上から、東芝EMIとポリドールが選択肢から外れる。

東洋化成と日本コロムビアは、レーベル内にPMが刻印されているので、出題の画像では判別できない。
ただ、東洋化成の場合、送り溝に、委託元を表すと思われる刻印がある。
たとえば、ワーナー・パイオニアなら数字の3、クラウンやキャニオンならFである。
ってことは、9時の文字は、東洋化成が委託元CBS/SONYを表すものとして刻印したものの可能性はある。

ただ、もう一つ、可能性がある。
委託プレスの場合、たとえばVictorが外部から委託を受けてプレスする場合はV、東芝EMIならTO、ポリドールならPと、自社(プレスしている委託先の会社)を表すアルファベットが刻印されるからだ。
これは東洋化成にはないが、日本コロムビアにはあるかもしれない。
日本コロムビアが自社を表すアルファベットといったら、おそらくCだ。
9時の文字は、出題の画像でもCと判読できるかと思うが、ルーペで確認しても間違いなくCである。

東洋化成の委託元を表すと思われる記号は、独自の記号を割り当てていて、その会社のイニシャルを使用していない。
そう考えると、9時の文字の正体は、後者の可能性が高そうだ。

しかも、下記記事で推測したように、久保田早紀『異邦人』のシングルには射出成形盤が存在しているのだが、CBS/SONYが自社で射出成形盤を製造していたのではなく、日本コロムビアに委託していたものが射出成形盤だった可能性が高いと思う。

https://sawyer2015.blog.ss-blog.jp/2021-07-22

この情況証拠まで合わせて考えれば、日本コロムビア委託プレスという結論を導くことができるんじゃないかと思う。

レーベル形状からアプローチすることもできる。
レーベル中央の円の直径は、東芝EMIと日本コロムビアでは35mm、ポリドールでは30mmだ。
東洋化成は29mmだったが、78年頃から36mmくらいのものも現れる。
日本盤のレーベルを見慣れていれば、出題画像のレーベルが、ポリドールのものでないこと(中央の円の直径が35mmぐらいはあること)はすぐにわかる。
そうすると、可能性があるのは東芝EMIと日本コロムビア、それから東洋化成ということになる。
中央の円が微妙(1mm)に大きい東洋化成が画像から判別できるのであれば、東芝EMIと日本コロムビアに絞ることができるが、これは誰にでもできる芸当ではないかもしれない。
これができれば、送り溝にPMがないので、日本コロムビアの方だと特定できる。

決定的な証拠として、レーベル内PMを確認しておこう。
これを出題で示すと、クイズに反応してくれそうなごく少数の人には、あまりにも簡単な問題になってしまうので、あえて載せなかった。


20220816-4.jpg


レーベル内PMは、Mー1である。
これは間違いなく日本コロムビアのPM(1968年を起点として1980年までアルファベットで年を表し―81年からは数字ー、月の表記は東芝EMIと同じ)で、1980年1月プレスであることを表す。
(日本コロムビアのPMについては、Cal De Rさんの記事https://ameblo.jp/caldermusic/entry-12619902536.htmlをご覧ください。)

ってことで、正解は、3の日本コロムビアということになる。
『夢がたり』の日本コロムビア委託プレスが明らかになったことで、『異邦人』の射出成形盤が日本コロムビア委託製造だったという仮説の信憑性も非常に高くなったんじゃないかと思う。
(実を言うと、個人的には、ここが一番重要だった。)

ところで、日本コロムビアに委託されたのはどこまでだったのだろうか。

日本コロムビアのマザー/スタンパー表記は、CBS/SONYとは違うので、マザー提供でメッキ処理(つまりスタンパー製造)も日本コロムビアで行われたとすると何らかの痕跡が残るだろう。
それがないということは、おそらく、CBS/SONYからスタンパーが提供されて、プレスのみが委託されたのだと思う。

それにしても、発売翌月に委託プレスにまわしたスタンパーが、ファースト・スタンパーってどういうことなんだろう?
コピーシェル用に保存しといたスタンパーをまわしたってことなのか?
あるいは、もしかしてコピーシェルそのものなのか?
9時の文字も、日本コロムビア側が自社プレスを表すイニシャルを刻印したものとボクは解釈したのだが、もしかしてコピーシェルを意味するCだったりして・・・
いや、でも、コピーシェルそのものなら、スタンパー部分に何か追加の刻印があるはずだよねぇ。

タグ:久保田早紀
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