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OFF COURSE:We are [TMLの仕事]

「あの頃のわたしたち(The Way We Were)」から「僕らのいま」へ。

オフコース(OFF COURSE)『We are』(ETP-90038)を取り上げよう。


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このアルバムもTML(The Mastering Lab)でマスタリング&カッティングが行われているので、そういう繋がりもあるのだ。


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TMLでのマスタリングもさることながら、このアルバムには、ミキシング・エンジニアとしてビル・シュネー(Bill Schnee)が関わっている。
スティーリー・ダン(Steely Dan)の"Aja"やボズ・スキャッグス(Boz Scaggs)の"Middle Man"なんかに関わったエンジニアである。
そんなわけで、この『We are』というレコード、音の感触は、まさに当時のアメリカのAORだ。

だから4枚ある・・・というわけではない(笑)
4枚に増えたのは最近のことで、東芝EMI盤の送り溝に製造年月表示があることを知ったせいだ。

このアルバムは発売日当日に買ったので、そのまま持っていれば、買いなおそうとは思わなかったかもしれない。
しかし、当時買ったものは、手持ちのレコードを売っては新しいレコードを買っていた大学生の頃に処分してしまった。

20年くらい前、再びアナログを集め始めたとき、すぐにこのレコードも買いなおしたのだが、そのときはとにかくジャケットの綺麗なものを買った。

このレコード、そのほとんどがたぶん押し入れに長くしまいこまれていたものであるせいか、そういうシミの目立つジャケットが多い。
真っ白なジャケットは、僅かなシミも目立つ。
どうしても、綺麗なジャケットのものを探したくなる。

それに、数年前まで、ボクは、日本のプレス技術は優秀なので、80年代の日本盤ともなれば初盤だろうがレイトだろうが音質差なんてほとんどない、と思っていた。

だから、20年くらい前に買いなおした盤が初盤である可能性はすこぶる低い(笑)

恐る恐る送り溝を確認してみると、案の定、レイトである。
刻印されていたのは3-9で、1983年9月製造であることが判明した。
このレコードの発売日は1980年11月21日だから、3年近く経っている。
送り溝を見ても、L3 30/L3 11とかなりスタンパーが進んでいる。
こりゃダメだ。

このアルバムは、「愛を止めないで」でブレイクした後、オリコン2位まで登り詰めた『Three and Two』(ETP-80107)の次の作品だから、当然のことながら、大量の初回プレスが存在するはずである。
探せば簡単に見つかるはずだ。

で、探してみたら、まず0ーY刻印の1980年11月製造盤を見つけた。
発売日の当月製造盤である。
発売日が21日だから、当月製造盤だって初回プレスだろうと思ったのだが、送り溝を見るとL 51/L 30とかなりスタンパーが進んでいる。
これはかなり微妙である。

初回から大量にプレスしただろうから、このぐらいスタンパーが進んでいるのも仕方がないかなと思う一方で、考えてみれば、大量にプレスが必要な場合、かなり前からプレスを始めるはずだから、前月製造盤も大量にあるに違いないとも思った。

そんなわけで、どこにでもゴロゴロ転がっているレコードだし、引き続き探索を続けることにした。

そしたら、すぐに0-X刻印の1980年10月製造盤を見つけることができた。
それも2枚、しかも、マトが違う(笑)


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(1980年10月製造を示す0-X刻印。)



一つはL 8/L 9、Lマトで一桁スタンパーだ。
これは初回プレスに間違いない。

もう一つは3L 17/L 12、Side 2のマトは変わらないがSide 1は3Lマトで、ラッカーが違う。
スタンパーもちょっと進んでいる。

数字だけで考えれば、L 8/L 9を買えばいいという話だが、カッティング違いというのはどうにも気になるので、両方買うことにした。
Side 1のLと3Lの間には、もう一つ違いがあったしね。


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(写真だとわかりにくいが、マトはLでスタンパーは8である。)



L 8/L 9のほうは、Side 1がTML-S刻印で、Side 2がTML-X刻印だ。


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(Side 1のTML-S刻印。)



それに対して、3L 17/L 12のほうは、両面ともTML-X刻印である。


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(Side 1のマトとTML-X刻印。)



Discogsによると、TML-Xは、TML-MやTML-Sと刻印される際に使われたスカリー製のカッティング・レースよりも後に導入されたノイマン製のレースでカッティングされたことを示すとのことである。

このノイマン製のレースをTMLがいつ導入したのかは明らかではない。
80年代のTMLカッティングにはTML-Xもザクザク見つかるが、70年代のTMLカッティングではほとんど見ないので、ノイマン製レースの導入は、おそらく70年代も終り頃だろう。

ピンク・フロイド(Pink Floyd)"The Wall"の初回盤にTML-X刻印盤が存在するので、リリース前月の1979年10月には導入されていたことは明らかだ。
とりあえず、バカ売れしたレコードではTMLでもすべてのカッティング・レースを稼働させたんじゃないかという前提で調べてみると、1978年10月にリリースされたTOTOのファーストにはTML-MとTML-Sしかなさそうなので、1978年にはまだ導入されていなかったんじゃないかと思う。
(後述するノイマン製レースの音の特徴からしても、すでに導入していたのなら、リカッティングのマト3はノイマン製レースでやってもよかった気がするし。)

そんなわけで、TMLがノイマン製レースを導入したのは1979年頃だと考えているのだが、それ以上は特定できていない。
1979年10月以前にリリースされたレコードの初回盤でTML-X刻印のあるものを発見した方は、ぜひお知らせくださいm(_ _)m

で、音については、Side 2の方はラッカーが同じでスタンパー・ナンバーにも大きな開きがあるわけではないので大差はないが、Side 1のほうはかなり違う。

TML-S刻印のマトLがダイナミックでエネルギッシュな印象であるのに対して、TML-X刻印のマト3Lでは、押し出し感が後退したぶん、繊細さを増して鳴る。
分離が良くて、個々の音色が明快なのである。
大音量で鳴らしたときの微弱音のリアリティなんかは、特筆すべきものがあると思う。
オフコースなら、こっちかなぁ。

そういや、手持ち4枚ではSide 1のLマトのみTML-Sで、Side 1の3LマトやSide 2のLマト(L3はLマトのマザー違いだと思う)はTML-Xだったが、ほかのマトも存在するのかしらん?
ご存知の方は、ぜひお知らせくださいm(_ _)m

アナログ・マニアの病気がかなり進行して、「スカリー製レースとノイマン製レースの音の違いに興味が出てきてしまった」なんていう方は、このレコード、手軽に比較が楽しめて便利だ。

あっ、中毒が深刻化しても、ボクはいっさい責任を持ちませんので、あしからず(笑)

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Barbra Streisand, The Way We WereのUSオリジナル [TMLの仕事]

25日の深夜、TBSで放送された小田和正さんの『クリスマスの約束』、和田唱さんといっしょにやった映画音楽メドレー第三弾は、バーブラ・ストライサンド(Barbra Streisand)の「追憶(The Way We Were)」から始まった。

それを聴いていて(観ていて)オリジナルがどうしても聴きたくなったのだが、残念ながらレコードを持っていない。

「そんなときはサブスクでしょう」なんて声が聴こえてきそうだが、それじゃダメなんである。

「オリジナルが聴きたい」というのは、単に、「バーブラの歌で聴きたい」ということだけではないのだ。
針がレコードの溝をトレースするときに発生する、あのやわらかなノイズがかすかに流れる中から、鮮度抜群のバーブラの歌が聴こえてこないといけないんである。

わかるかなぁ?
まぁ、わかる人だけわかってくれればいいや(笑)

とにかく、一度その音のイメージが頭に浮かんだが最後、もう頭から離れない。
翌日には、ボクはレコード・ショップに出かけていたのであった。

中古レコードの場合、レコード・ショップに行ったからといって見つかるとは限らない。
レア盤の場合はもちろんだが、それこそ、バカ売れして大量にあるはずのレコードだって、見つからないときは見つからないのだ。
「欲しい」と思って、探しに行って即座に見つかったら、相当にラッキーである。

で、どうやらボクはまだ、今年のレコード運を使い果たしていなかったようだ。
最悪日本盤でもいいかなぁと思っていたのだが、USオリジナル(Columbia PC 32801)が簡単に見つかった。


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ボクは彼女のルックスについてはあまり好みではないので、美人だと思ったこともないのだが、このジャケットの彼女はとてもキュートだ。

裏ジャケットにあしらわれたシルエットも、なかなか素敵である。


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シルエットを囲んで曲名やらプロデューサー名やらがクレジットされているのだが、左上にはこんなクレジットも。


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そう、TML(The Mastering Lab)でダグ・サックス(Doug Sax)がマスタリングしているのである。

レーベルは、とくに代わり映えのしないUSコロンビアの赤いレーベルだが、


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送り溝には、しっかりTMLの刻印がある。


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この時期には、まだTMLのみで、TML-MやTML-Sではない。
あれ、でも、TML-Sが示す二台目のスカリー製カッティング・レースが導入されたのって、こんなに遅かったっけ?

"The Way We Were"は、1974年1月にリリースされたものなので、カッティングは1973年の12月だろう。

一方、Discogsを見ると、1972年に二台目のスカリー製カッティング・レースが導入されて、元からあったカッティング・レースをTML-M、新しく導入されたほうをTML-Sと呼ぶようになった、というようなことが書いてある。

時期が合わないσ^_^;

手持ちの盤をいろいろひっくり返してみても、どうも1974年の始め頃まではTMLのみのようだ。
Discogsが間違っていて、二台目のカッティング・レースが導入されたのは1974年なのか、あるいは、1972年に二台目が導入された後も、しばらくは区別せずにTMLの刻印のみを用いていたが、1974年になってTML-MとTML-Sを使い分けるようになったかの、いずれかだと思われる。

Discogsの記載は、間違っているか、少なくとも不正確だ。
TML刻印は、少なくとも1974年初頭まではTMLのみ、その後、1974年中にTML-MとTML-Sになる(9月リリースのジャクソン・ブラウン(Jackson Browne)”Late for the Sky”はTML-MとTML-Sなので、少なくとも8月には新しい刻印に変わっていたと思われる)。

さて、音のほうだが、イメージ通りだった。
やわらかい針音に導かれて、鮮度の高い音が飛び出してくる。
これは、大音量で楽しみたい。

しかも、このアルバム、初めて聴いたのだが、内容もとても良い。

映画『追憶』とその主題歌の大ヒットを受けて急遽発売されたもので、69年発表のシングル"What Are You Doing The Rest Of Your Life?"に、旧録音の未発表曲5曲と、タイトル曲"The Way We Were"を含む新録音4曲を加えてまとめられているだけに、アルバムとしての統一感には欠けるのだが、なにせ収録されている楽曲が良いし、バーブラの歌唱も素晴らしいのである。

今回入手した盤のマトは1D/1Cで、ピットマン工場(東海岸)プレス。
1A/1Aはサンタマリア工場(西海岸)プレスかなぁ?

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TMLの3人のエンジニア [TMLの仕事]

レコード・コレクターズ7月号の初盤道は、サンフランシスコでの掘削レポートだった。
なにやらフラッシュ・ディスク・ランチの300円コーナーや800円コーナーが巨大化したようなところで思う存分掘りまくったようで、羨ましい限りである。

掘削レポートでは掘り当てた初盤3枚が紹介されていたが、そのうちの1枚がボズ・スキャッグス(Boz Scaggs)の”Silk Degrees”だった。
ボクにとってはまさに青春の1ページを彩る1枚である。
このレコードをかけながら、何人の女の子を口説いたことか(ウソです 笑)。

冗談はさておき、大学時代によく聴いたレコードで、とても思い入れの強いレコードであることは間違いなく、3年ほど前にレコード・コレクターズで「黄金時代のAOR」という特集が組まれたとき(2016年9月号)、ボクもちょっとだけ掘って、すでに初盤を手に入れている。


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(手持ちのUS盤3枚(すべてPC 33920品番)とレコード・コレクターズ7月号。)


このレコード、1976年3月にリリースされたUSオリジナル初盤の品番はPC 33920だが、翌1977年には価格改定があった関係でJC 33920という品番で再発されたうえに、1985年にはPC 33920というオリジナルと同じ品番で廉価盤がリリースされているのでややこしい。
(その間、1981年には、ハーフスピード・マスタリングのHC 43920という盤もリリースされている。)

まぁ、1985年の再発盤には裏ジャケットにバーコードがあるので簡単に判別できるし、翌年には別の品番で再発されたといっても、最初からバカ売れしたレコードなので(RIAAによって、リリースから4か月後の1976年7月にはゴールド、9月にはプラチナ認定されている)、バーコードなし初盤品番のレコードもゴロゴロしている。

ゴロゴロしているだけに、逆に、初盤確定が厄介だ(笑)

探検隊が掘りあてたMatrix末尾両面1Aの西海岸サンタマリア工場プレスを見つけることができればいいが、見つけるのはなかなか大変かもしれない。
とりあえず、ボクは3年前にそれほど苦労せずに手に入れたが、それはかなりラッキーなことだった気もする。
(3枚持っているUS盤のうち、ほかの2枚は、Matrix末尾が1AHとか1AJとかの2桁だしね。)


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(これはA面のRunoutだが、B面も同じく1Aだ。)


さて、このRunout画像を見て気づいたと思うが、このレコード、カッティングはThe Mastering Lab(TML)で行われている。
エンジニアは、ダグ・サックス(Doug Sax)だ。


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(ダグ・サックスによるカッティングであることは、インナースリーブにもクレジットされている。)


もっとも、Matrix末尾2桁におよぶ大量のカッティングのすべてをダグ・サックスが自分自身でやったのかと言えば、疑わしい。
実際、手持ちの3枚はまるで音が違う。
単に音がなまって違うというのではない。
カッティング・エンジニアが違うとしか思えないのである。

少なくとも、Matrix末尾1AJ/1AEという盤(ちなみに、これもサンタマリア工場プレスだ)のRunoutにはRhという手書きの刻印があり、ロン・ヒッチコック(Ron Hitchcock)のカッティングであることがわかる。


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(ロン・ヒッチコックのカッティングであることを示すRh刻印。)


個々の楽器が鮮度の高い音色で前に飛び出してくるダグ・サックス・カッティングの初盤に対し、ロン・ヒッチコック盤は、鮮度感やバランス感では遠く及ばないものの重厚さではむしろ凌いでいる感がある。
しかし、ボズは、こんな重厚な音でなくていいと思う(笑)

逆に、もう一枚のMatix末尾1AH/1AGという盤(ちなみに、これは中部のテレホート工場プレス)は、低域は軽めで重心は高いが、ヌケが良くてさわやかに広がる。
鮮度感は初盤に遠く及ばないが、このさわやかさは捨てがたい。
ボクは、しばしば、この盤のほうを聴きたくなることがある。
これ、マイク・リーズ(Mike Reese)のカッティングなんじゃないだろうか。

ここまで読んで、ハタと気づいた貴方は、このブログの熱心な読者に違いない(そんな人はいないだろー 笑)。
そう、TOTOのファースト(1978年)がリリース直後にリカッティングされた(あるいは、もしかしたら、最初から2種類のカッティングがあった)背景には、この盤でのTMLのエンジニアによる音の傾向の違いの体験があったのかもしれない。
(TOTOのファーストについては、こちらhttps://sawyer2015.blog.so-net.ne.jp/2017-09-02 をどうぞ。)

ロン・ヒッチコックとマイク・リーズ(もう完全に決めつけてしまう 笑)によるリカッティングがどの時点から行われていたのか、両者のカッティングの間に前後関係があるのかは不明だが、手持ち盤でいうと、ロン・ヒッチコック・カッティングの盤は、通常のPC品番ジャケットとは違うジャケットに入っていた。

ジャケットの違いについては、1A盤が入っていたもののみ完全なマットで、他の2枚は微妙に光沢がある(とはいえニス塗りのような光沢ではない)という違いがあるが、これは写真ではわかりにくいし、果たして初盤ジャケはこうだと言えるほどのものかわからない。

ただ、他の2枚のうち、1枚はあきらかにレイト・ジャケットだと判断できる特徴がある。
背表紙に価格表記がなく、裏ジャケットのロゴの上の品番表記からプリフィックスが消えているのである。
これは、コロンビア・レコードがJC品番に移行した際の一般的なジャケットの特徴だ。
(背表紙の品番表記がどうなっているのかは、その部分が破れて欠けているのでわからない。もしかしたら、JC品番なのかもしれないが、移行期にはPC品番でJC品番のようなジャケットもあったかもしれないとも思う。いずれにせよ、このジャケットに入っていた盤も、もちろんレーベル上の品番はPC 33920である。)


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(裏ジャケットの比較。上から、1A盤、1AH盤、1AJ盤(Rh刻印)。一番下のものには、背表紙にX698がなく、コロンビア・ロゴの上の品番にPCがない。)


品番表記からプリフィックスが消えているのはインナースリーブも同じだ。


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(上が1A盤で、下が1AJ盤(Rh刻印)。)


ちなみに、インナースリーブは、厚手の紙を使ったしっかりしたものと、ペラペラの薄い紙のものがあるが、サンタマリア工場産のものにはPCプリフィックスが消えているものでも厚手のインナースリーブがついていたのに対し、テレホート工場産のものは薄手だったので、時期的な違いではなく、場所的な違いだという気がする。

おっと話がずれた。
今回の話題は、ボズ・スキャッグスの”Silk Degrees”では、TMLの当時の3人のエンジニアの音の違いを楽しめるんじゃないか、という話だ。
エサ箱に安く転がっているレコードなので、興味のある方は、ぜひお試しくださいな。

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TOTO, HydraのUS盤のこと~TMLリカッティングの時期について [TMLの仕事]

<ファーストや"Hydra"の記事にもすぐにとべるようにリンクを追加しました。>(2019年3月17日)

レコード・コレクターズ4月号の初盤道は、”TOTO IV”である。

TOTOといえば、セルフ・タイトルのファーストやセカンドの”Hydra”を取り上げたことがあるし、サードの”Turn Back”はともかく、”TOTO IV”はそのうちここでも取り上げようと思っていた。
それというのも、”TOTO IV”には、ファーストや”Hydra”と同じようなリカッティング問題があるからだ。

ファーストのリカッティング問題についてはこちら。
https://sawyer2015.blog.so-net.ne.jp/2017-09-02

”Hydra"のリカッティング問題についてはこちら。
https://sawyer2015.blog.so-net.ne.jp/2018-12-15


しかし、”Hydra”のリカッティング盤もなかなか出会わなかったが、”TOTO IV”については未だにリカッティング盤に出会っていない(もう1年くらい、レコードショップに行くたびにチェックはしているのだが・・・)。
つまり、”TOTO IV”については、取り上げようにも取り上げられない状況なのである。
そんなわけで、ボクが”TOTO IV”のことを取り上げるのは、まだ先のことになりそうだ。


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<"TOTO IV"のSTERLING盤は2枚あるが、TML盤はない。"Hydra"はBG盤2枚にTML盤が1枚ある。>


ただ、”TOTO IV”のリカッティング時期に関する初盤道の推理を前提にすると、”Hydra”のリカッティング時期に関するボクの以前の推論が間違っていた可能性が出てくる。
しかも、リンダの”Hasten Down the Wind”に関する記事の追記で行った考察を踏まえると、”TOTO IV”のリカッティング時期について、初盤道とは別の視点から、同じくらいの時期が推理できる(初盤道の推理についてはレコード・コレクターズをご覧ください)。
しかも、そのリカッティングと同時に”Hydra”のリカッティングも行われたと考えるのが、理に適っているのである。
なにせ、どちらもリカッティングはTML(The Mastering Lab=ダグ・サックス(Doug Sax) が創設したマスタリング・スタジオ)で行われているのだ。

それに、ついさっきのことだが、まったく別の点から、ボクは”Hydra”1982年リカッティング説の決定的証拠に気づいてしまった(笑)

そこで、”Hydra”と”TOTO IV”のリカッティング時期について、ボクなりにちょっと考えてみることにしたわけである。

“Hydra”を取り上げた記事では、TMLによるリカッティングの時期について、「84年の5thアルバム”Isolation”のカッティング時に行われたのではないか」と推理していた(そして、”TOTO IV”もそのとき同時にTMLリカッティングされたと思っていた)。

TOTOのカッティングは、セルフ・タイトルの1stがTMLのマイク・リーズとロン・ヒッチコック(Mike Reese and Ron Hitchcock)、2ndの”Hydra”がバーニー・グランドマン(Bernie Grundman)、3rdの”Turn Back”と4thの”TOTO IV”がSTERLINGのジョージ・マリノ(George Marino)だが、5thの”Isolation”でTMLに戻り、ダグ・サックス(Doug Sax)が行っている。
ここから単純に考えて、TMLのダグ・サックスに”Isolation”のカッティングを依頼するときに、いっしょに”Hydra”のリカッティングも依頼したのではないかと考えたのだが、”TOTO IV”のTMLへのリカッティングの依頼がもっとずっと早い時期(リリースからわずか数か月後の82年の夏頃)に行われていたとすると話は違ってくる。

”Hydra”のリカッティングをTMLに依頼したのは、むしろ”TOTO IV”のリカッティングを依頼したときなんじゃないか。
新譜が爆発的に売れれば、当然のことながら、旧譜もそれなりに売れる。
だから、旧譜のテコ入れも、新譜の売れ行きに合わせてするだろう。
RIAAの認定で言えば、“Isolation”はゴールド(50万枚)だが、”TOTO IV”は最終的にトリプル・プラチナ(300万枚)である。
旧譜のテコ入れなら、「”TOTO IV”の爆発的売れ行きに合わせて行った」と考えるほうが理に適っている。

では、それはいつ頃だったのだろう?
ここで役に立つのが、リンダの”Hasten Down the Wind”に関する記事の追記で行った考察である。

TOTOの場合、ファーストは爆発的に売れたが(78年9月27日のリリースで、12月12日にゴールド認定、79年1月23日にはプラチナ認定、最終的にはダブル・プラチナ認定(89年11月10日)されている。)、”Hydra”はリリースから5か月ほどした80年3月6日にゴールド認定されたもののそこまでで、”Turn Back”にいたってはゴールド認定もされていない。

この状況で、どのぐらいの売り上げ予想をして、どのぐらいのラッカーを切るかだが、少なくともそんなに大量には切っていないだろう(手持ち盤には1S/1Rなんて盤もあるし、Discogsを見ると1V/1Uなんてのも出ているが、もともとコロンビアのマトのアルファベットはLまでしか使わなかったはずなので、特別な割り当てがされている可能性がある)。
いずれにせよ、リリース後3か月でゴールド認定(82年6月30日)、9か月でプラチナ認定(82年12月30日)、2年半ほどでダブル・プラチナ認定(84年10月26日)なんて売れ方をするとは想定していなかったはずだ。

速攻でゴールド認定に到達したあと、「このままの売れ行きなら、すぐにスタンパーが足りなくなる」と判断され、リカッティングが依頼されたのが82年夏頃というのは、辻褄があう(何故、ファーストプレスと同じSTERLINGではなくTMLに依頼されたのかは、TMLカッティング盤を手に入れた後、紙ジャケ探検隊の仮説の検証も含めて、ゆっくり聴き比べでもしながら考えようと思う)。

最後に、決定的証拠の話である。
これは新たに発見した証拠ではなく、単に気づいていなかっただけの証拠なので、鋭い方はすでに気づいていて、ボクのことを笑っていたのかもしれない(こっそり笑わないで間違いは指摘してくださいねm(_ _)m)。

“Hydra”をとりあげた記事で、ボクは、次のように書いている。

「今回入手したTMLカッティング盤は、中部テレホート工場産のMatrix末尾2F/2Eというものだった」

そう、”Hydra”のTMLカッティング盤はテレホート工場産だったのである。
で、テレホート工場は、実は82年に閉鎖されているのだ!
82年中にTMLリカッティングが行われていなければ辻褄が合わないのである。

というわけで、「”Hydra”のTMLリカッティングは、”TOTO IV”のTMLへのリカッティング依頼に合わせて、82年夏頃に行われた」というのが、現時点での結論である。

「だからなに?」って話なのは重々承知なのだが、まぁ、ほら、前に書いたことの訂正ってことで(笑)


タグ:TOTO
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Rickie Lee Jones, The Magazineのこと [TMLの仕事]

前回の記事からの流れで、今回はリッキー・リー・ジョーンズ(Rickie Lee Jones)のファースト・アルバムが取り上げられるに違いないと思っていた方も多いかもしれない。
(「そもそもブログの読者自体が多くないだろ!」というツッコミは無しね 笑)

実際、何年も前から掘ってはいるのだが、これがまた、一筋縄ではいかない部分があって、仮説の裏付けがなかなかできないんである。
ってことで、ファースト・アルバムについてはもうしばらく探求させていただくとして、今回はサード・アルバム"The Magaine"のことを取り上げよう。


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前回の記事で紹介したように、この作品は1984年リリースなので、日本盤は従来のノートレーベルのままだが、USワーナー盤は新しい透かしレーベルに切り替わっている。


手持ちのUS盤(Warner Bros. Records ‎9 25177-1)のMatrixを見てみると、次のように刻印されている。

Side 1: 1-25117-A-SH3 @ B-19480-SH3 TML-M SLM △7358
Side 2: 1-25117-B-SH4 @ B-19681-SH4 TML-S SLM △7358-X

@(実際には筆記体の小文字のaを模した独自のロゴだが、ここでは@で代用する)とTML-M/TML-Sは機械刻印だが、それ以外はすべて手書きである。

TMLは、Doug Saxが設立したカリフォルニアにあるマスタリング・スタジオ、The Mastering Labにおけるマスタリングを示すもので、TML-MとTML-Sはカッティング・レースによる違いだ。
もっとも、このレコードの場合は、Doug Saxではなく、Ron Lutterがカッティングを行っている(インナースリーブに書いてある)。

1-25117がレコード番号だから、そのあとのB-19480(Side 1)とB-19481(Side 2)はマスター番号だろう。
SH3/SH4がMatrix末尾なので、Side 1が3番目に切られたラッカーでSide 2が4番目に切られたラッカーということになるが、この時期、まぁ、このぐらいは初回に切られたラッカーだと思う。

SLM △_ _ _ _/ SLM △_ _ _ _-Xは、Sheffield Lab Matrixでメッキ処理が行われたことを示すものだ。
Sheffield Lab Matrixの工場は、西海岸ではカリフォルニアに、東海岸ではペンシルベニアに存在していたが、このレコードは当然カリフォルニア工場で処理されたと思われる。

@は、カリフォルニアにあるプレス工場Allied Record Companyのロゴのことなので、Allied Record Companyでプレスされたものであることがわかる。

ワーナーはもともと西海岸の会社だし、Matrix末尾SH1でないところに多少の不満は残るものの、西海岸産の手持ち盤もオリジナル初回盤と判定して良さそうだ。


さて、次は日本盤(Warner Bros. Records P-13023)の話である。
というのも、このレコードの日本盤、輸入メタルを使ってプレスされているからである(まぁ、セカンドの"Pirates"からそうなんだけどね)。

カッティングについては???ということも多いが、プレス品質と盤の材質については、日本盤は世界に誇ることができるほど優れている。
つまり、輸入メタルの日本盤は、音質的には本国盤オリジナルを越えることもあるのだ。
80年代はとくにそうである。

では、この"The Magazine"はどうなのか?
Runout情報を読み取っていこう。

当然ながら、日本盤のレコード番号の刻印はある。
見慣れた機械刻印だ。


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そして、輸入メタルであることを示す手書きの刻印がある。


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少し見にくいかもしれないが、"1-25117-A-INTL SET 5"とある。
おそらくINTLは国外向けを示すもので、その5番目のカッティングということだろう。
実は、写真に撮り忘れたが、このほかに"JAP"とも刻まれている(ちなみにSide 2は"JAPAN")。

TML刻印も、もちろんある。


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Side 1は、"TML-M"だ(ちなみにSide 2はTML-X)。

Matrix末尾が若干進んでいるものの、本国盤オリジナルを凌駕する音質への期待がムクムクと湧き上がってくる。

しかーし、実際に聴いてみると、残念ながら本国盤オリジナルは超えていない。
輸入メタル使用なんで日本盤も良い音ではあるのだが、やはり本国盤オリジナルに分があるのだ。

それは、もしかしたら、これのせいかもしれない。


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そう、手持ちの本国盤オリジナルは透けるのである(笑)
(USオリジナルがすべて透けるのかは知らない。)

いや、でも、むしろ、帯にしっかり書いてある、こっちの理由のほうが大きいか。


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そう、日本盤は、Side 2におさめられた組曲"Rorschachs"の"Theme For The Pope"が、フランス語のヴォーカル入りバージョンなのである。
US盤は、歌詞のない「ララ~ラララ~ラ~」というバージョンだ。

このせいで、US盤の歌詞付インナースリーブと日本盤の歌詞付インサートは少し違っている。


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"Theme For The Pope"の歌詞がないぶん、US盤のインナースリーブのほうには、スナップショットなどが掲載されているのだ。

ってことで、日本盤はUS盤とはバージョン違いの曲が収録されているわけだが、問題はどっちが先に作られたかということだ。

Side 2のMatrixを見てみよう。


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少し見にくいかもしれないが、"1-25117-B-RE1-INTL 6"となっている。
"RE1"が付いてるってことは、後から作ったのね・・・

そうそう、日本盤にももちろんSLM刻印があるのだが、US盤が△7358だったのに対して、日本盤は△7382である。
メッキ処理も、ちょっと後で行われたのね・・・

そんなわけで、"The Magazine"日本盤は、輸入メタルなれど「本国盤オリジナルを凌ぐ音質の日本盤」の仲間入りはできなかったのであった。

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