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The Band, Northern Lights – Southern CrossのUSオリジナル [アナログ・コレクターの覚書]

今日は祝日だし、昨日の記事でちょっと触れた、ザ・バンド(The Band)”Northern Lights – Southern Cross"(Capitol Records ST-11440)のUSオリジナル・ファースト・プレスに関する興味深い話について、メモ代わりに書いておこう。

このレコードのリリースは1975年11月だから、ファースト・プレスのレーベルは、オレンジである。
しかし、USキャピトルのオレンジ・レーベルには前期レーベルと後期レーベルがある。
このレコードのリリースは、ちょうどその境目あたりだ。

つまり、このレコードには前期オレンジ・レーベルの盤が存在するのだが、もし1975年11月が後期オレンジ・レーベルへの移行前なら、ファースト・プレスは前期オレンジ・レーベルということになる。
もし後期オレンジ・レーベルへの移行後なら、前期オレンジ・レーベルは残余レーベル使用にすぎず、ファースト・プレスは後期オレンジ・レーベルということになる。

いずれであるかを探求する前に、まず、前期オレンジ・レーベルと後期オレンジ・レーベルの違いを明らかにしておこう。

レッド・ターゲット・レーベルにかわって1972年頃から使用されるようになる前期オレンジ・レーベルは、次のようなものである。


20230811-01.jpg


これは、1974年11月にリリースされたリンダ・ロンシュタット(Linda Ronstadt)"Heart Like a Wheel" (Capitol Records ST-11358)のものだが、注目しなければならないのは上部のリムの記述だ。
見にくいので拡大しよう。


20230811-02.jpg


"MFD. BY CAPITOL RECORDS INC., A SUBSIDIARY OF CAPITOL INDUSTRIES, INC., U.S.A. CAPITOL MARCA REG."と表記されている。
リムが短いのでショート・リムと呼ぶことにしよう。

一方、1975年の途中から使用されることになる後期オレンジ・レーベルは次ようなものだ。


20230811-04.jpg


これは、1977年3月にリリースされたザ・バンド"ISLANDS"(Capitol Records ST-11358)のものだが、注目すべきは、やはり上部のリムだ。
見にくいので拡大しよう。


20230811-05.jpg


まず、"MFD. BY CAPITOL RECORDS INC., A SUBSIDIARY OF CAPITOL INDUSTRIES-EMI, INC., U.S.A. CAPITOL MARCA REG."との表記がある。
この部分で前期オレンジ・レーベルの表記との違いは、"INDUSTRIES”の後に"-EMI"が追加されていることと、"MARCA REG"の前の"CAPITOL"がロゴになっていないことだ。

そして、何より重要なのは、この表記に続いて、"ALL RIGHTS RESERVED. UNAUTHORIZED DUPLICATION IS A VIOLATION OF APPLICABLE LAWS."という表記が追加されていることである。


20230811-06.jpg


こちらは、リムが長くなっているので、ロング・リムと呼ぶことにしよう。

では、ショート・リムの前期オレンジ・レーベルから、ロング・リムの後期オレンジ・レーベルにかわったのは、いつなんだろう?
"Cahoots"のUSオリジナル(Capitol Records SMAS 651)について書いたときにも参照した下記サイトでは、1975年9月となっている。

https://www.friktech.com/btls/capitol/capitollabels.pdf

9月だとすると、11月リリースの”Northern Lights – Southern Cross"は、もう後期オレンジ・レーベルにかわった後ということになる。
しかし、9月だという根拠がまったく示されていないので、鵜呑みにはできない。

そこで、”Northern Lights – Southern Cross"(ST-11440)の前後のリリースをDiscogsでチェックしてみると、ST-11439のHUBやST-11437のMonda Harris²は、登録VERSIONの少なさから言って、おそらく初盤のみで追加プレスがなかったようなレコードだと思われるが、いずれもショート・リムの前期オレンジ・レーベルである。
一方、ST-11443のGene Watsonは、ロング・リムの後期オレンジ・レーベルだ。

カタログ番号順にリリースされるとは限らないが、仮にカタログ番号順にリリースされたとすると、まさに”Northern Lights – Southern Cross"が境目だったんじゃないかという気がしてくる。

”Northern Lights – Southern Cross"のファースト・プレスは、果たして、前期オレンジ・レーベルなのか、それとも、後期オレンジ・レーベルなのか?

こういうときには、ジャケット表記との整合性というのも、参考になることがある。
ってことで、ジャケット裏の表記を確認してみると・・・


20230811-09.jpg


"A SUBSIDIARY OF CAPITOL INDUSTRIES-EMI, INC."という"INDUSTRIES”の後に"-EMI"が追加された表記だ。
ってことは、後期オレンジ・レーベルに変わった後なのか?

しかし、リンダ・ロンシュタットの"Heart Like a Wheel" のジャケット裏の表記を確認してみると、すでに、"A SUBSIDIARY OF CAPITOL INDUSTRIES-EMI, INC."という"INDUSTRIES”の後に"-EMI"が追加された表記なのである。


20230811-03.jpg


どうやら、この"A SUBSIDIARY OF CAPITOL INDUSTRIES-EMI, INC."という表記は、レーベルの変更にかなり先行して採用されていたようだ。
ジャケット表記との整合性は、決め手にはなりそうもない。

しかし、やはり、この”Northern Lights – Southern Cross"から後期オレンジ・レーベルに変更されたのだと思う。
ただし、少なくとも、ウインチェスター工場とジャクソンヴィル工場では、新レーベルが間に合わず、前期オレンジ・レーベルが使用された可能性がある(ロサンジェルス工場プレスの前期オレンジ・レーベル盤はDiscogsには登録されていない)。

なぜなら、このレコードの前期オレンジ・レーベルには、次のような特徴があるからだ。
(うちのはジャクソンヴィル工場プレスだが、Discogsで確認できるウインチェスター工場プレスでも同じである。)


20230811-07.jpg


ショート・リムであることもわかりにくいので、拡大してみよう。


20230811-08.jpg


前期オレンジ・レーベルであることは確認できたかと思うが、もう一つ、大きな特徴がある。
上部に、後期オレンジ・レーベルではリムに追加するはずの"ALL RIGHTS RESERVED. UNAUTHORIZED DUPLICATION IS A VIOLATION OF APPLICABLE LAWS."という表記が印刷されているのである。

これは、いったい、どういうことなんだろう?
新レーベル(後期オレンジ・レーベル)がすでに手許にあるのに、わざわざこんな追記までして残余レーベルを使用するというのも考えにくいと思う。
おそらく、新レーベルの納品が間に合わなかったのではないか。
それで、やむを得ず、こんな追記をして旧レーベル(前期オレンジ・レーベル)を使用したんじゃないだろうか。

なお、残余レーベル使用については、ボクは独自の仮説を持っていて、下記記事に詳しく書いてある。

https://sawyer2015.blog.ss-blog.jp/2018-12-17

端的に結論だけを言えば、残余レーベルは、本来、旧譜の追加プレスに使用されたものだと、ボクは考えている。
それを間違えて新譜に使ってしまうミスも多かったかもしれないが、そうしたミスが起きる可能性は、初回プレスのときよりも何度目かの追加プレスのときの方が高く、したがって、初回プレスに残余レーベルが使用される可能性は低かったんじゃないかと思うのである。

しかし、"Northern Lights – Southern Cross"の残余レーベル使用は、この原則に合致しない。
というか、残余レーベルをそのまま使用するのではなく、「新レーベルで追加される表記を印刷して使用する」という特殊な使い方だから、当然、原則とは違う使い方だったのだろう。

いずれにせよ、この”Northern Lights – Southern Cross"のファースト・プレスについては、本来なら、後期オレンジ・レーベルが使用されるはずだったが(ロサンジェルス工場では、実際、使用されたかもしれない)、納品が間に合わず、前期オレンジ・レーベルに"ALL RIGHTS RESERVED. UNAUTHORIZED DUPLICATION IS A VIOLATION OF APPLICABLE LAWS."という表記を印刷したものが使用された、ということなんじゃないかと思うのだ。

なお、うちのには厚紙のインナースリーブ(Cardboad Inner Sleeve)が付属していたが、この頃のキャピトルはレイトになると薄紙のインナースリーブに変更されることがあるから、このレコードも、レイトには薄紙インナースリーブのものが存在するかもしれない。
Discogsにも登録されていないので、何か情報をお持ちの方は、ぜひ教えてくださいな。

タグ:The Band
コメント(2) 
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コメント 2

koss

想也 さん
私の所有盤を確認しました。
ロング・リムの Los Angeles Pressで
ST-1-11440-Z6• 3 ✻
ST-2-11440-Z6• 2 ✻
厚紙インナースリーブでした。
ご報告までで、知らなかったことがあり楽しい記事でした。

このレコード "Make No Defference"いいですね。
Robbie Robertsonを偲んで…
by koss (2023-08-20 10:53) 

想也

kossさん

ご確認ありがとうございます(^^)
ロビーを偲ぶには良いレコードですよね。

TLでも、LAプレスはみんなロング・リムでしたし、西海岸は間に合ったけど、東海岸と中部は間に合わなかったというほうが、追記して旧レーベルを使用する合理性があると思うので、LAプレスにはロング・リムしか存在しないかもしれません。
by 想也 (2023-08-20 11:55) 

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