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Kate Bush, The Kick InsideのUK盤をめぐるあれこれ [アナログ・コレクターの覚書]

前回の記事では、音質についてはまったく触れなかった。

Matrix末尾が若いわけだし、スタンパーも1桁なんで、当然のことながら、以前持っていたものより鮮度は高いのだが、何度か聴いていると、どうもそれだけではない気がしてきた。
そんなわけで、最終的な音質評価をするためには、じっくりとレイト盤と比較することが必要だと思ったのである。

今回のMatrix末尾1/1盤入手の結果、現在ボクの手元には、ケイト・ブッシュ(Kate Bush)”The Kick Inside”のUK盤が5枚ある。


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なんで5枚もあるのかというと、写真を見て気づく人も多いと思うが、ピクチャー・ディスク盤(以下PD盤という)が混じっているからである。
つまり、通常盤(EMI EMC 3223)が3枚とPD盤(EMI EMCP 3223)が2枚で合計5枚なのだ。

しかも、手元の5枚、Matrix末尾で言うと、通常盤は1/1のほか2/1と2/3、PD盤は4/2と6/5で、Side 1が1・2・4・6、Side 2が1・2・3・5と、このレコードのMatrixバリエーションのかなりの部分をカバーしている。
さらに、マザー/スタンパー情報を合わせて考えると、なかなか興味深い事実も浮かび上がってくる。

そんなわけで、このアルバムのUK盤をめぐるあれこれについて、ちょっと書いてみようと思ったわけである。


PD盤の種類


最初に、PD盤について書いておこう。
このアルバムのPD盤には、ファースト・エディション(以下、1st Ed.という)、セカンド・エディション(以下、2nd Ed.という)、サード・エディション(以下、3rd Ed.という)の3種類がある。
3rd Ed.は、透明なブラスティック・スリーブに入っていたそうだが、ボクは持っていない。

1st Ed.は、通常盤ジャケットと同じデザインのジャケットに、”LIMITED EDITION PICTURE DISK”と書かれた円形のステッカーが貼ってあるのが一般的だが、ボクの持っているものにはステッカーがない(ってことで、画像はDiscogsとかでご確認ください)。
剥がした痕跡もまったく見当たらないので(フルラミネートなので跡形なく剥がせないこともないだろうが、剥がしたときの疵とか僅かな痕跡くらいは残りそうなので)、最初から貼られていなかったんだと思う。

「通常盤ジャケットと同じなら入れ替えられたんじゃ?」と思う人もいるかもしれないが、それはない。
なぜなら、一つだけ違うところがあるからだ。


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<上が2nd Ed.のラミネートされていないジャケットで、下が1st Ed.のフルラミネート・ジャケット>


そう、背表紙には、Pの付加されたPD盤のカタログ番号が印刷されているのである。
ってことで、ボクの持っている盤は、ステッカーを貼り忘れたものなんだろう。
あるいは、もしかしたら、最初の出荷のときにはステッカーの製造が間に合ってなかったとか、ステッカーを貼ることになったのが小売店の要望を受けてのことで最初はついていなかったとかで、初回出荷分にはステッカーが貼られていなかったという可能性もある気がする。
でも、仮にそうだったとしても、これはステッカー付きのほうが、価値があるだろう。
とはいえ、ステッカーのためだけにもう一枚買う気にはなれないが(笑)

1st Ed.は、2nd Ed.と盤自体も少し違う。

Discogsを見ると2nd Ed.も3rd Ed.も1st Ed.と同じ1979年にリリースされたように書いてあるが、Matrixを見る限り、2nd Ed.は1982年以降のプレスである。
つまり、2nd Ed.や3rd Ed.のMatrixは、9時3時にマザー/スタンパーがある形式ではなく、YAX 5389-6-1-/ YAX 5390-5-1-というEMIが1982年頃から採用した形式で刻印されている。
したがって、9時3時マザー/スタンパーがある形式でMatrixが刻印されていれば、1st Ed.ということになる。


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Runoutの見にくい刻印に目を凝らさなくても、はっきり見えるところにも違いがある。
盤の下部に”ALL RIGHTS OF THE PRODUCER AND OF THE OWNER OF THE RECORDED WORK RESERVED. UNAUTHORISED PUBLIC PERFORMANCE AND COPYING OF THIS RECORD PROHIBITED. ”という記載がある(ボクの所有しているものにはSide 1にのみ、EMI RECORDS LIMITED. がある)が、2nd Ed.では、この後に”MANUFACTURED IN THE UK BY EMI RECORDS LTD.”という記述が追加されている(実は、権利関係の警告文自体も、少し変更されて長くなっている)。
この追記がなければ1st Ed.である。


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<”MANUFACTURED IN THE UK BY EMI RECORDS LTD.”がない1st Ed.>


2nd Ed.では、ジャケットに貼られたステッカーが楕円形になる。
背表紙のカタログ番号はPの付加されたPD盤の番号だが、通常の光沢ジャケで、ラミネート・コーティングはされていない。


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Matrixは上述したように、1982年頃からEMIが採用した形式で刻印されている。


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盤の下部のクレジットについては、”MANUFACTURED IN THE UK BY EMI RECORDS LTD.”が追記されているのが2nd Ed.だ。


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<”MANUFACTURED IN THE UK BY EMI RECORDS LTD.”が追記された2nd Ed.>


Matrix情報とプレス時期


さて、いよいよMatrixによる音質の違いの話と言いたいところだが、その前に、各盤のRunout情報をまとめておきたい。


  Side 1 Side 2
Mat. mother Stamper Mat. Mother Stamper
通常盤① 1 1 R 1 1 T
通常盤② 2 1 GMP 1 3 GPL
通常盤③ 2 6 RDO 3 2 RMM
PD盤① 4 1 RLH MO 2 4 RTT
PD盤② 6 1 - 5 1 -



ちなみに、Side 1のRunoutにあるメッセージは、Matrix末尾1では”REMEMBER YOURSELF”と正しいスペルだが、Matrix末尾2では“REMBER YOURSELF”とスペルミスをしている。Matrix末尾4では正しいスペルに戻り、Matrix末尾6になるともはやメッセージ自体が書かれていない。
(Matrix末尾3や5についてはわからないので、持っていらっしゃる方はぜひ教えてください。)

次に、手元の5枚についてそれぞれのプレス時期を推定しておきたい。

まずPD盤②については、上述したように1982年頃のプレスだと推定される。
PD盤①は、PD盤の1st Ed.がリリースされた1979年と考えてよいだろう(ちなみに、Side 1のスタンパーのうち3桁のほうはMatrix末尾3の続きだと間違えて打ったもので、2桁のほうが正しいものだと思う)。

通常盤①はファースト・プレスだから1978年2月のプレスでよいとして、あとは通常盤②と③である。
いずれもフルラミネートのジャケットなので、それほどレイトじゃないことは確かだ。

実は、通常盤①と②についてはインナースリーブが入れ替えられていたが、③についてはオリジナルらしいインナースリーブが付属していた。


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<写真だとわかりにくくなってしまったが、最下部に978とあり、1978年9月製造のCSだとわかる。>

これが最初からついていたものだとすると、通常盤③は、1978年9月か10月のプレスということになる。
時期的にいって、1978年11月12日リリースのセカンドの”Lionheart”に合わせてか、あるいはその前の先行シングル”Hammer Horror”のリリース(1978年10月27日)に合わせての追加プレスと考えるのが妥当だろう。

通常盤②はスタンパー・ナンバーの進み具合からして、セカンド・シングル” The Man with the Child in His Eyes”のリリース(1978年5月26日)に合わせての追加プレスと推測するのが妥当な線だと思われる。

以上のプレス時期の推定がそれほど大きく間違っていないとすると、5月頃にプレスされたと思われる通常盤②ですでに3桁スタンパーなわけだから、Side 1のMatrix末尾1から2への変更は、相当初期の段階で行われたものと考えられる。
Matrix末尾1/1の盤の数がかなり少ないのも頷ける。


Matrix違いによる音質の違い


Matrix末尾1/1の盤は、全般的には確かに鮮度の高い音がする。
冒頭のクジラの鳴き声の伸び、ケイトのボーカルの生々しさ、楽器の響きなど、随所でハッとするところがある。
低域がぐーんと沈みこみ、相対的に中高域が浮かびあがってくるのは、ボクのような低域好きにはたまらない。

ただ、Side 1に関して言うと、どうにも不満の残るところもあるのだ。
とくにA5 ”The Man With The Child In His Eyes”からA6 ”Wuthering Heights”にかけて、ストリングスの音が少し歪みっぽく聴こえる。
内周歪みに抗して、いかにストリングスを綺麗に響かせるかは、このレコードのカッティングにおけるエンジニアの腕の見せ所だと思うが、Matrix末尾1のカッティングがそれに十分に成功しているかというと、疑問なのだ。
まぁ、カッティングの問題ではなく、ボクが手に入れた盤に特有の現象だという可能性も、アナログの場合、なきにしもあらずではあるのだが・・・
(それから、もちろん、内周歪みに強いカートリッジを使用している場合には、また違った印象かもしれない。)

ただ、この点に関して言うなら、Matrix末尾2では確実に歪みっぽさは軽減している(あるいは他にもいろいろマスタリング=カッティング面でのブラッシュアップを感じる部分もある)。
そう思ってMatrix末尾1と2の盤面を比較してみると、A5のバンド幅が明らかに違うし、A6の溝の切り方も違っている。
同じレシピではカッティングされていないと思う。
(ちなみに、Matrix末尾2と4は―後者はPD盤なんで見にくいのだが―溝を見る限り、同じレシピでカッティングされているように見える。)

つまり、ボクは、マスタリング=カッティングの完成度という点では、Side1に関しては、Matrix末尾2に軍配をあげたいのである。

Side 2については、確かにB7 ”The Kick Inside”のストリングスにもSide 1と同様の問題はあるものの、それほど顕著ではないし、Matrix末尾2や3でこの点が改善された反作用なのか、全体的に低域が軽くなっている(Matrix末尾3のB3 “Oh To Be In Love”あたりではかなり軽い)のをどう感じるかで好みは分かれる気がする。
ボクは、Side 2に関しては、Matrix末尾1が一番好きだ。

そんなわけで、Matrix末尾2/1でスタンパー1桁の初期盤あたりが聴いてみたくて仕方がない衝動に駆られているのであるが、これは探すのがかなり難しそうだなぁ・・・

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