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月の綺麗な夜に [音楽が奏でる情景]

月が綺麗な夜だった。

僕と彼女はベランダに出て、満天の星の海にぽっかりと浮かぶ満月を見上げた。

「ねぇ、ワイン飲もうよ。」

彼女は、そう言うが早いか、すぐさま階下に駆け出してゆく。

いつだってそうだ。彼女は思い立ったらすぐに行動にうつす。僕の意思なんか確かめもしない。

でも、それでいい。

それがいい。

僕だって、反対のときには、ちゃんとストップをかける。

彼女にしたら、「ストップをかけられないってことは賛成よね。」って思っているのかもしれないが、実はちょっと違う。

いや、違わないのかな?

彼女が喜ぶことなら、賛成ってだけなのだけれど。



「こんなに月の綺麗な夜は、やっぱりこれよね。」

振り返ると、いつの間にか戻った彼女が差し出していたのは、クーラーの奥にしっかりと隠しておいたはずのワインだった。

「そっ、それは・・・・」

「1990年のBAROLO。こんな良いワイン、いつ手に入れたの?」

僕は、思わず黙り込む。

「これを一人で飲もうなんて、絶対ずるいっ!」

「いや・・・一人で飲もうなんて、思ってなかったけど・・・」

「あっ、この前の私の誕生日のために用意してたのに、忘れちゃったの? だったら、今飲んじゃお! 来年の誕生日まで待てないっ!」

彼女はまっすぐに僕を見つめている。僕は、再び黙り込む。



<・・・そのワインはさ、君が僕のプロポーズを受け入れてくれたときのために用意したんだよ・・・>



僕は、黙ったまま、満天の星の海に浮かぶ満月を見上げた。

「ダメなら、ダメって言えばいいのに・・・」

背後で、彼女がつぶやく声が聴こえた。



「そのワインをあけたらさ・・・・」

僕は振り返って、彼女の目を見つめる。

「オレの嫁さんにならないといけない。」



彼女は一瞬、目を丸くしたあと、いつもの笑顔にもどって、

「いいよ。」

と言った。



月を眺めながら、二人でワインをあけていると、彼女がふっと歌いだした。

 ♪ Desperado,
 ♪ Why don't you come to your senses?
 ♪ come down from your fences, open the gate.
 ♪ It may be rainin', but there's a rainbow above you.
 ♪ You better let somebody love you.
 ♪ You better let somebody love you...ohhh..hooo
 ♪ before it's too..oooo.. late.

「手遅れになる前に、愛してあげる。」

歌い終えたあと、彼女が笑いながら言った。

「オレは、ならず者かよ?」

「ならず者になっても、愛してあげる。」

僕は彼女の肩をそっと抱き寄せる。

「ならず者にはならないさ。ならず者になったら、君を幸せにできないからね。」


ワイングラスに浮かんだ月が、僕たちにウインクするように、少し、揺れた。





♪「音楽が奏でる情景」は、好きな音楽にインスパイアされて書きとめた(たぶん 笑)フィクションです♪


<この記事は、旧ブログ「君がいる風景」から加筆修正のうえ転載しています。>

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Happy or Unhappy? [音楽が奏でる情景]

”アリスに出てくる「なんでもない日おめでとう」って、Unhappy Birthdayだっけ?”


”Happy Unbirthdayだよ。Unhappy Birthdayじゃ、惨めな誕生日になっちゃう・・・”


”惨めな誕生日~”


そう言うと、彼女は吹き出した。

ケラケラケラとお腹を抱えている。

どうやら、ツボにはまったらしい。


”ところで、今日ってオレの誕生日なんだけど?”


”知ってる。Unhappy Birthday♪”


”オマエなぁ・・・・・”


”私にお祝いしてもらえなかったら、惨めな誕生日でしょ?”


そう言いながら、彼女はまたケラケラケラとお腹を抱えた。



そこで・・・・・目が覚めた・・・・・



ベッドから起き出して、僕はコーヒーを淹れる。
モカの香りが部屋を満たした。

コーヒーを飲みながら、いつもは使わないマグカップを一つ、食器棚から取り出す。
それにコーヒーを入れて、サイドボードの上の、彼女がまだ元気だった頃に二人で撮った写真の前に置いた。


写真の中と外、アリスをあしらった同じマグカップが並んでいた。


Inspired by JUJU/奇跡を望むなら





♪「音楽が奏でる情景」は、好きな音楽にインスパイアされて書きとめた(たぶん 笑)フィクションです♪

<この記事は、旧ブログ「君がいる風景」から加筆修正のうえ転載しています。>

タグ:JUJU
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再会 [音楽が奏でる情景]

”ひさしぶり”


”5年ぶり?”


”もうそんなに経つのか・・・”


”そんなに経っちゃったみたい”



”幸せか?”


”もちろん! 残念ながら・・・”


”残念ながらって何だよ?”


”最後に会ったとき、「オレのほうがオマエを幸せにできる」なんて豪語してたから”


”だからって、一度惚れた女の不幸を願うほど、器の小さい男じゃないぞ”


”うん、わかってる”



”それに今は、「オレのほうが幸せにできる」なんて、思い上がりだったと思うし”


”負けを認めるんだ?”


”勝ち負けの問題じゃないやい!”


”そう?”


”今のオマエの幸せと、あのときオレがオマエに約束できた幸せは、まったく違うものだけど・・・”


”うん・・・”


”どっちのほうが幸せかを決めるのは、オレじゃなくて、オマエだからさ”




少し困ったように眉間に皺を寄せる君の顔は、5年前と少しも変わっていなかった。



Inspired by Mr.Children/くるみ






(ついでに、ちょっと素敵なカバーも)


♪「音楽が奏でる情景」は、好きな音楽にインスパイアされて書きとめた(たぶん 笑)フィクションです♪


<この記事は、旧ブログ「君がいる風景」から加筆修正のうえ転載しています。>

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究極の選択 [音楽が奏でる情景]

街で一番のケーキ屋さんの、店名を冠したチョコレート・ケーキを用意した。

コーヒーは、少し深めにローストしたグァテマラ産。
南部鉄瓶でお湯をわかし、丁寧にネルドリップで淹れる。


”一生チョコレートが食べられないのと、一生チョコレート味のものしか食べられないのと、どっちがいいかっていったら、わたし、一生チョコレート味のものしか食べられないほうがいいな。”


休みの日の午後、目の前の彼女は、とても幸せそうな顔をしている。

そんな彼女の顔が見られることを、僕はとても幸せだと思う。


”あなたはどう?”

”チョコレートは確かに好きだけど、一生チョコレート味のものしか食べられないってのはちょっと・・・”

”じゃあ、コーヒーだったらどう?一生コーヒーが飲めないのと、一生コーヒー味のものしか食べられないのと、どっちがいい?”

”うーん・・・・そんな究極の選択、考えたこともないからな・・・”


そんな風に受け答えしながら、僕は心の中で、そっとつぶやいていた。


”一生君に逢えないのと、一生君にしか逢えないのと、どっちがいいかだったら、答えは簡単なのにな。”



Inspired by Uru/最愛





♪「音楽が奏でる情景」は、好きな音楽にインスパイアされて書きとめた(たぶん 笑)フィクションです♪

<この記事は、旧ブログ「君がいる風景」から転載しています。>

タグ:Uru
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人生で一番幸せだった日 [音楽が奏でる情景]



「人生で一番幸せだった日はいつですか?」

そんな質問をされたら、いつの日を思い浮かべるだろう?

やっぱりユウが生まれた日のことがすぐに思い浮かぶなぁ。
とはいえ、これまで過ごしたユウとの日々は、みんな同じくらい幸せで、どの日が一番とも言えない。
あらためて、自分がどれほど幸せだったかに気づくのである。

それはそれとして、ユウとの日々のほかに、「人生で一番幸せだった日」がないかと記憶をたどってみる。
そうすると、笑顔が一つ、思い浮かんだ。
好きで好きで仕方なかった人の笑顔。
結局ボクの想いがかなうことはなかったけれど、もう逢うこともなくなった今もなお、ボクの胸に棲みつづけている笑顔。

あの日、彼女にとって特別な日を、二人でいっしょに過ごした。
帰り道、家まで送る車の中で、深夜0時が過ぎたとき、
「今日一日、私、あなたにしか会ってない。」
そう言いながら、彼女は笑った。

彼女にとって特別な日に、彼女と過ごしたあの一日。
彼女の笑顔が溢れていた一日。
ユウとの日々をのぞけば、ボクにとって、「人生で一番幸せだった日」かもしれない。

それは4月のこと。
だから、この歌を聴くと、思い出す。


     ♪ また4月がきたよ
     ♪ 同じ日のことを
     ♪ 思い出して





タグ:椎名林檎
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