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TMLの3人のエンジニア [TMLの仕事]

レコード・コレクターズ7月号の初盤道は、サンフランシスコでの掘削レポートだった。
なにやらフラッシュ・ディスク・ランチの300円コーナーや800円コーナーが巨大化したようなところで思う存分掘りまくったようで、羨ましい限りである。

掘削レポートでは掘り当てた初盤3枚が紹介されていたが、そのうちの1枚がボズ・スキャッグス(Boz Scaggs)の”Silk Degrees”だった。
ボクにとってはまさに青春の1ページを彩る1枚である。
このレコードをかけながら、何人の女の子を口説いたことか(ウソです 笑)。

冗談はさておき、大学時代によく聴いたレコードで、とても思い入れの強いレコードであることは間違いなく、3年ほど前にレコード・コレクターズで「黄金時代のAOR」という特集が組まれたとき(2016年9月号)、ボクもちょっとだけ掘って、すでに初盤を手に入れている。


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(手持ちのUS盤3枚(すべてPC 33920品番)とレコード・コレクターズ7月号。)


このレコード、1976年3月にリリースされたUSオリジナル初盤の品番はPC 33920だが、翌1977年には価格改定があった関係でJC 33920という品番で再発されたうえに、1985年にはPC 33920というオリジナルと同じ品番で廉価盤がリリースされているのでややこしい。
(その間、1981年には、ハーフスピード・マスタリングのHC 43920という盤もリリースされている。)

まぁ、1985年の再発盤には裏ジャケットにバーコードがあるので簡単に判別できるし、翌年には別の品番で再発されたといっても、最初からバカ売れしたレコードなので(RIAAによって、リリースから4か月後の1976年7月にはゴールド、9月にはプラチナ認定されている)、バーコードなし初盤品番のレコードもゴロゴロしている。

ゴロゴロしているだけに、逆に、初盤確定が厄介だ(笑)

探検隊が掘りあてたMatrix末尾両面1Aの西海岸サンタマリア工場プレスを見つけることができればいいが、見つけるのはなかなか大変かもしれない。
とりあえず、ボクは3年前にそれほど苦労せずに手に入れたが、それはかなりラッキーなことだった気もする。
(3枚持っているUS盤のうち、ほかの2枚は、Matrix末尾が1AHとか1AJとかの2桁だしね。)


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(これはA面のRunoutだが、B面も同じく1Aだ。)


さて、このRunout画像を見て気づいたと思うが、このレコード、カッティングはThe Mastering Lab(TML)で行われている。
エンジニアは、ダグ・サックス(Doug Sax)だ。


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(ダグ・サックスによるカッティングであることは、インナースリーブにもクレジットされている。)


もっとも、Matrix末尾2桁におよぶ大量のカッティングのすべてをダグ・サックスが自分自身でやったのかと言えば、疑わしい。
実際、手持ちの3枚はまるで音が違う。
単に音がなまって違うというのではない。
カッティング・エンジニアが違うとしか思えないのである。

少なくとも、Matrix末尾1AJ/1AEという盤(ちなみに、これもサンタマリア工場プレスだ)のRunoutにはRhという手書きの刻印があり、ロン・ヒッチコック(Ron Hitchcock)のカッティングであることがわかる。


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(ロン・ヒッチコックのカッティングであることを示すRh刻印。)


個々の楽器が鮮度の高い音色で前に飛び出してくるダグ・サックス・カッティングの初盤に対し、ロン・ヒッチコック盤は、鮮度感やバランス感では遠く及ばないものの重厚さではむしろ凌いでいる感がある。
しかし、ボズは、こんな重厚な音でなくていいと思う(笑)

逆に、もう一枚のMatix末尾1AH/1AGという盤(ちなみに、これは中部のテレホート工場プレス)は、低域は軽めで重心は高いが、ヌケが良くてさわやかに広がる。
鮮度感は初盤に遠く及ばないが、このさわやかさは捨てがたい。
ボクは、しばしば、この盤のほうを聴きたくなることがある。
これ、マイク・リーズ(Mike Reese)のカッティングなんじゃないだろうか。

ここまで読んで、ハタと気づいた貴方は、このブログの熱心な読者に違いない(そんな人はいないだろー 笑)。
そう、TOTOのファースト(1978年)がリリース直後にリカッティングされた(あるいは、もしかしたら、最初から2種類のカッティングがあった)背景には、この盤でのTMLのエンジニアによる音の傾向の違いの体験があったのかもしれない。
(TOTOのファーストについては、こちらhttps://sawyer2015.blog.so-net.ne.jp/2017-09-02 をどうぞ。)

ロン・ヒッチコックとマイク・リーズ(もう完全に決めつけてしまう 笑)によるリカッティングがどの時点から行われていたのか、両者のカッティングの間に前後関係があるのかは不明だが、手持ち盤でいうと、ロン・ヒッチコック・カッティングの盤は、通常のPC品番ジャケットとは違うジャケットに入っていた。

ジャケットの違いについては、1A盤が入っていたもののみ完全なマットで、他の2枚は微妙に光沢がある(とはいえニス塗りのような光沢ではない)という違いがあるが、これは写真ではわかりにくいし、果たして初盤ジャケはこうだと言えるほどのものかわからない。

ただ、他の2枚のうち、1枚はあきらかにレイト・ジャケットだと判断できる特徴がある。
背表紙に価格表記がなく、裏ジャケットのロゴの上の品番表記からプリフィックスが消えているのである。
これは、コロンビア・レコードがJC品番に移行した際の一般的なジャケットの特徴だ。
(背表紙の品番表記がどうなっているのかは、その部分が破れて欠けているのでわからない。もしかしたら、JC品番なのかもしれないが、移行期にはPC品番でJC品番のようなジャケットもあったかもしれないとも思う。いずれにせよ、このジャケットに入っていた盤も、もちろんレーベル上の品番はPC 33920である。)


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(裏ジャケットの比較。上から、1A盤、1AH盤、1AJ盤(Rh刻印)。一番下のものには、背表紙にX698がなく、コロンビア・ロゴの上の品番にPCがない。)


品番表記からプリフィックスが消えているのはインナースリーブも同じだ。


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(上が1A盤で、下が1AJ盤(Rh刻印)。)


ちなみに、インナースリーブは、厚手の紙を使ったしっかりしたものと、ペラペラの薄い紙のものがあるが、サンタマリア工場産のものにはPCプリフィックスが消えているものでも厚手のインナースリーブがついていたのに対し、テレホート工場産のものは薄手だったので、時期的な違いではなく、場所的な違いだという気がする。

おっと話がずれた。
今回の話題は、ボズ・スキャッグスの”Silk Degrees”では、TMLの当時の3人のエンジニアの音の違いを楽しめるんじゃないか、という話だ。
エサ箱に安く転がっているレコードなので、興味のある方は、ぜひお試しくださいな。

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