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Tears For Fears, Songs from the Big ChairのUS盤 [アナログ・コレクターの覚書]

さて、次はUS盤(Mercury 422-824 300-1 M-1)である。

US盤にはきわだった特徴がある。
裏ジャケットに、マスタリングに関するクレジットがあるのだ。


20211204-13.jpg


"Mastered by GREG CALBI at Sterling Sound, New York"と明記されている。
すなわち、STERLINGでグレッグ・カルビによってマスタリングが行われたということである。

オリジナルがUS盤かUK盤か判然としない場合、ジャケットやインナースリーブに明記されたマスタリングに関するクレジットが手がかりになる場合がある。

たとえば、以前取り上げた(下記)エリック・クラプトン(Eric Clapton)の"No Reason to Cry"のように、US盤にもUK盤にも同じマスタリングに関するクレジットがあるが、US盤はクレジット通りであるのに対して、UK盤はクレジットとは異なる別の場所/エンジニアによってカッティングが行われているような場合は、US盤のほうがオリジナルだと推測できる。

https://sawyer2015.blog.ss-blog.jp/2017-09-09

これまた以前取り上げた(下記)ロキシー・ミュージック(Roxy Music)の"Flesh + Blood"のように、外観上の仕上げはどう見てもUK盤がオリジナルに見えるのに、US盤がオリジナルだと考えざるをえないという場合もある。

https://sawyer2015.blog.ss-blog.jp/2018-11-10

もちろん、この「オリジナルはどれか」という問題は、アーティストの音質に関する意向がどの盤に最も忠実に現れているかという問題にすぎない。
オリジナルのほうが通常鮮度的な優位性はあるが、マスタリングやカッティングまで考慮に入れれば、常にオリジナルのほうが音が良いというわけでもない。
そもそも、音の良し悪しなんて、客観的に判定するのは難しい。
再生環境の問題(オーディオ・システムやとりわけ日常的な再生音量)やリスナーの好みで評価が異なることはいくらでもある。
(だから、これまでもしばしば言っているが、ボクが「音が良い」と言っても、それは、ボクの再生環境(とくに再生音量についてはかなり大きめである)でボクの好みでは、という条件付きである。)

話が少し脱線した。
オリジナルがUS盤かUK盤か判然としない場合、ジャケットやインナースリーブに明記されたマスタリングに関するクレジットが手がかりになる場合があるという話だった。

では、この"Songs from the Big Chair"にUS盤がオリジナルである可能性があるのかというと、それはない。
なぜなら、確かにUK盤はSTERLINGカッティングではないのだが、ジャケットやインナースリーブにSTERLINGカッティングだというクレジットもないからである(そもそも、UK盤にはマスタリングに関するクレジット自体がない)。

しかも、US盤には、インナースリーブが付属していない。
最初は、自分の持っている2枚がたまたま欠品なのかと思ったが、Discogsを見てもUS盤のインナースリーブというのは発見できない。
そもそも、裏ジャケにマスタリングに関するクレジットがあるのも、US盤の裏ジャケはUK盤(ほかインナースリーブやインサート付きの各国盤)のインナースリーブのクレジット記載面を使ったものだからだ。
インナースリーブが付くわけがない。
まぁ、失われた写真面のほうをインサートにして付属させるという可能性はあるが、どうやらそれは行われなかった。
つまり、US盤は、レコードに対するアーティストのすべての意向を反映するものになっていない。
オリジナルのわけがないんである。

つまり、US盤がSTERLINGマスタリングであるのは、アメリカ市場でウケる音作りのためにSTERLINGにマスタリング/カッティングを依頼したというだけなのだ。

しかし、というか、それ故に、というか、オリジナルがUK盤だとしても、アメリカ市場でウケる音が好きな人にとっては、US盤の音のほうが好ましいに違いない。
そういう人にとっては、いろいろ工場違いがあるUS盤、どこの盤が一番良いのか気になるだろう。
ボクは、このレコードについてはUK盤派なので、気にならないが(笑)

Discogsを見ると、このレコードは4つの工場でプレスが行われたことが確認できる。
西部はロサンジェルスのAllied Record Company、中部はリッチモンドのPRC Recording Company、東部はコロンビアのPitman工場とニューヨークのHauppauge Record Manufacturing Ltd.である。

これらの工場違いは、送り溝のマトにAllied Record CompanyはALD、PRC Recording CompanyはPRC、コロンビアのPitman工場はCRP、Hauppauge Record Manufacturing Ltd.工場はHRMが付いているので簡単に判別できる。

また、レーベル上でも、前3者については中央左のSide表記の下に、HRM工場の場合は下部リムのMANUFACTUREDの前に、工場識別番号が記載されている。
ALD工場は22、PRC工場は72、CRP工場は56、HRM工場は53である。

もちろん工場による音の違いはあるだろうから、US盤が好みだという方は、工場違いを掘ってみるというのも、正しいアナログの楽しみ方に違いない(笑)

UK盤派のボクはといえば、US盤については、STERLING刻印があって、グレッグ・カルビのカッティングであることを示すマーク(この頃は野球のボールのようなマークを使っていた)がついていれば、それでいいやというスタンスである。


20211204-12.jpg
<STERLING刻印とグレッグ・カルビのカッティングであることを示すマーク。>



ボクの持っているUS盤は2枚ともALD工場プレスだが、どちらにも両面にSTERLING刻印とグレッグ・カルビのマークがある。
というか、マト自体がまったく同じである。

「どうせ2枚買うなら、工場違いとか、マト違いとかを買えばいいのに」と思った貴方!
工場違いでもマト違いでもないが、もちろん、ボクだって、違いがあるから買ったんである。


20211204-10.jpg


この画像で違いがわかるだろうか。
そう、向かって右のジャケットは、白黒というより若干セピアに近い色あいになっているのである。
で、この2枚、実は、紙質がまったく違っている。


20211204-11.jpg


セピアの方は光沢があって、なんとも雰囲気があるのだ。

しかも、盤のほうも、セピアジャケに入っていた方が圧倒的に音が良いのだ。
もちろん、マトが同じだから、音の違いはスタンパーの摩耗度の違いである。
歪みっぽさが格段に違うのである。

2枚ともALD工場プレスなので、音質的な違いも考慮に入れると、ジャケットの違いは地域的な違いではなく、時間的な前後関係があるんじゃないだろうか?

もし、いろいろUS盤を集めて比較したことがあるという方がいたら、ぜひ情報をご提供くださいませm(_ _)m

タグ:Tears For Fears
コメント(2) 
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コメント 2

duranduranblogjapan

私もUS盤2種持っております。全く同感で、色調が異なっているからです。
ところで、この2種の違いですが、私所有しているものは、ジャケ裏面右下の番号が、「510」と「0501」となっております。
想也様のお持ちの2種は如何でしょうか?ご確認いただければ幸いです。
by duranduranblogjapan (2021-12-05 15:07) 

想也

duranduranblogjapanさん

おぉ!
気づいてませんでしたー
一枚は510でしたが、もう一枚は0501ではなく、206でした。
ってことで、おそらく、私のものとduranduranblogjapanさんのものは、微妙に違いそうです。
もし可能ならツイッターのほうで、画像をご提供いただけませんか?

by 想也 (2021-12-05 20:04) 

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