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見本盤をめぐる一つの仮説~甲斐バンド『LADY』見本盤のPMの謎は解けたか? [国内盤研究]

先日の記事で、最近手に入れたレッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)"Coda"の日本盤(ワーナー・パイオニア P-11319)見本盤について、PMがLK2Pで数字の前のアルファベットが二つあることから、ボクは、「発売日前月の11月下旬に最初の見本盤が作られて、ボクが手に入れたものは、発売日当月の12月に追加で作られた見本盤ということだろうか?」と書いた。

しかし、これは、この記事を書くちょっと前に、1970年代を中心に活動した双子姉妹のアイドル・デュオ「ザ・リリーズ」のセカンド・シングル『好きよキャプテン』(1975年9月20日発売)の見本盤をめぐって、ささも教授としたちょっとしたやりとりに影響されて、少し見方が偏っていた。

11月にスタンパーが使用されたのは間違いないが、それが見本盤製造のためであったとは限らない。
最初にスタンパーを使用するのはテスト・プレスを製造するときだから、「11月にテスト・プレスを作るのに使ったスタンパーを使って、発売日当月の12月に見本盤が作られた」という可能性だってありうるからである。

うちの"Coda"見本盤が、「追加の見本盤」であることが確定するのは、PMにLがなく"K2P"と刻印された見本盤が発見されたときである。
"Coda"の見本盤を持っているみなさま、ぜひ送り溝を確認して、お知らせくださいませm(_ _)m

で、今日は、この「追加の見本盤」にからむ一つの仮説の話である。

「ザ・リリーズ」のセカンド・シングル『好きよキャプテン』の見本盤をめぐるささも教授の発見は、ホワイト・レーベルの見本盤に、1Sマトの盤と2Sマトの盤の二種類があり、1S盤の方にはPMがなく、2S盤の方には5-9というPMがあるということだった。

この場合、PMがある2Sマトの見本盤は、明らかに「追加の見本盤」である。
1975年というと、東芝ではまだ、見本盤にはPMを刻印していないから、PMのない1Sマトの見本盤のほうが「本来の見本盤」と言えるかもしれない。

そもそも、当時の東芝において見本盤にPMが刻印されなかったのは、製品管理上必要がなかったからだろう。
それ自体はずっと変わらなかったとすると、1977年頃からどうしてPMが刻印されるようになったのだろうか?

それを考えていて、ふっと気づいた。
PMが通常盤の製品管理上必要なものだったとすると、見本盤に刻印されなかったのは、単に、通常盤のプレスが始まる前だったからというだけだったんじゃ?

つまり、「見本盤にはPMを刻印しない」というルールがあったわけではなく、「通常盤にはPMを刻印する」というルールが、通常盤のプレスが始まる前の見本盤プレスの段階では適用されなかったというだけなんじゃないだろうか。

だから、予約が多くて通常盤のプレスを前倒ししなければならない場合には、見本盤用に特別にスタンパーが用意されるわけではないので、PMが打たれたスタンパーが見本盤用にまわされるし、あるいは、見本盤のプレスが何らかの理由で遅れて、すでに通常盤のプレスが始まっていた場合にも同じことが起こり、PMが刻印された見本盤ができあがることになった。

プロモーション方針の変更などで、通常盤のプレスに先行して最初に作った見本盤では数が足りなくなり、見本盤の追加プレスが必要になったとき、すでに通常盤のプレスが始まっていた場合にも同じことが起こる。

つまり、少なくとも1970年代半ばの東芝見本盤には、通常盤のプレスに先行してプレスされた見本盤(便宜上「第一見本盤」と呼ぶ)と、通常盤のプレスが始まった後にプレスされた見本盤(便宜上「第二見本盤」と呼ぶ)とがあるということなんじゃないかと思う。

少なくとも、ささも教授が発見したザ・リリーズのセカンド・シングル『好きよキャプテン』の二種類の見本盤の存在については、そう考えないとうまく説明できないだろう。

もちろん、「第一見本盤」と「第二見本盤」は、常にどのレコードにも存在するわけではないだろう。
そもそも、ホワイト・レーベルの見本盤は製造されず、通常盤にスタンプを押しただけの見本盤(便宜上「第三見本盤」と呼ぶ)しかないというレコードもあるのだから、「第一見本盤」しかないレコード、「第二見本盤」しかないレコードというのも、当然存在するんじゃないかと思う。

このように考えると、いままで不可解だったことが、いろいろうまく説明できる気がする。

つい最近、風の『windless blue』にマト違いの見本盤が存在することが確認されたが、これもうまく説明できるし、以前記事にしたオフコース『やさしさにさようなら』の見本盤がらみの不可解なPM刻印もうまく説明できると思う。

この甲斐バンド『LADY』(東芝EMI ETP-10459)見本盤の不可解だったPMも説明できるんじゃないだろうか。


20211011-1.jpg


まず、仮説をまとめておこう。

1 通常盤のプレスに先行してプレスされる見本盤(第一見本盤)があり、東芝プレスの場合、1978年頃までは、PMが刻印されていなかった。
2 通常盤のプレスと平行してプレスされる見本盤(第二見本盤)があり、これにはPMが刻印されていた。
3 第一見本盤と第二見本盤は常に両方とも存在するわけではなく、レコードによって、第一見本盤しかないもの、第二見本盤しかないもの、両方存在するもの、両方とも存在しないもの(第三見本盤だけが存在するもの)がある。


ザ・リリーズの『好きよキャプテン』の場合は、第一見本盤(マト1SでPMが刻印されていない見本盤)と第二見本盤(マト2SでPMが刻印されている見本盤)とが両方とも存在する例ということになる。

風の『windless blue』は東洋化成プレスだが、これも、両面マト1の見本盤が第一見本盤で、マト1/2の見本盤は第二見本盤ということだろう。

オフコース『やさしさにさようなら』の見本盤がらみの不可解なPM刻印についてはどうだろう?
「どんな話だったっけ?」って方は、下記記事をどうぞ。

https://sawyer2015.blog.ss-blog.jp/2021-04-25

オフコースの『やさしさにさようなら』の見本盤にPMがないのは第一見本盤だからで(PMを刻印しなきゃいけないことになっていたのに忘れてしまったわけではない)、1978年3月以前に発売されたレコードの見本盤にPMが刻印されていたとしても、それは第二見本盤だったからにすぎない。
第二見本盤はすでに1975年に存在するのである(ザ・リリーズの『好きよキャプテン』)。

つまり、ささも教授がお持ちの甲斐バンド『そばかすの天使』にPMが刻印されているのは、それが第二見本盤だからだろう。
確かに、川口工場プレスの見本盤のほうがスタンパーが進んでいるので、そちらが第二見本盤の可能性もあるが、川口工場プレスは御殿場工場プレスと区別するためにPMにKまたはWまたはGを追加していたという仮説を前提とすると、見本盤だからといってPMを刻印しないわけにはいかない。
したがって、川口工場プレスについては、第一見本盤であるか第二見本盤であるかにかかわらずPMが刻印される。
川口工場プレスであれば、第一見本盤であっても、PMが刻印されていていいのである。
したがって、スタンパーが進んでいることは気になるものの、おそらく川口工場プレスの見本盤の方が第一見本盤なんじゃないかと思う。
ただし、スタンパーから言って、川口工場プレス見本盤も、通常盤プレスの開始ときわめて近接して作られたものだと思われる。
あるいは、もしかしたら、第一見本盤は存在せず、川口工場プレス見本盤も御殿場工場プレス見本盤もいずれも第二見本盤のカテゴリーに属するものかもしれない(つまり、どちらも通常盤のプレスが開始された後に製造された見本盤ということ)。

また、川口工場の見本盤は、アルファベットの追加によって、第一見本盤と第二見本盤を区別していた節がある。

ボクの『LADY』見本盤のPMは8-7Wである。


20211011-2.jpg


しかし、『LADY』の見本盤には、PMが8-7WGというのもある(Cal De Rさんのブログhttps://ameblo.jp/caldermusic/entry-12670197230.html に情報が出ている)。

PMに二種類あるのを、どう考えればいいのかよくわからなかったのだが、これも、PM8-7Wの見本盤が第一見本盤で、PM8-7WGの見本盤が第二見本盤だと考えればいいんじゃないかと思う。

ちなみに、この時期の見本盤にはスタンパー・ナンバーがふられていないものがある。
『LADY』の見本盤にもスタンパー・ナンバーはふられていない。
これも、通常盤のプレスに先行して製造された見本盤であることの証拠の一つと言えるだろうか。


20211011-3.jpg
(1Sの後はJISマークまで何も刻印されていない。)



とまぁ、いままで不可解だった謎は一応これで説明できたと思うが、レコードの世界は、すぐにまた説明できないような例が出てくるのよね・・・

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