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Bryan Adams, RecklessのUSオリジナル~モナーク工場の最後の輝き [Bob Ludwig(RL)の仕事]

"RECKLESS"は、カナダのSSW、ブライアン・アダムス(Bryan Adams)が1984年11月5日にリリースした4枚目のアルバムで、彼の最高傑作である。
まぁ、最高傑作がどのアルバムであるかは主観によるかもしれないが、少なくとも商業的に一番成功したアルバムであることは確かだ。
なにしろ、アメリカだけで500万枚以上、世界的には1200万枚の売り上げを達成したという、大ヒットアルバムなのである。

このアルバム、売れに売れただけにUS盤もゴロゴロ転がっているのだが、悩ましいことに、バリエーションがいろいろある。
それにもかかわらず、Discogsを見ても、ジャケットとインナースリーブについてはバリエーションへの言及すらされていない(2020年9月21日現在―見落としてたらごめんなさい)。

内容が素晴らしいうえに、ボブ・ラディック(Bob Ludwig)がマスタリングした良音盤(ただし、後述するが、彼がカッティングをやった盤は確認できていない)であるにもかかわらず、ひどい仕打ちだと言わざるをえない。
安レコ愛に溢れたボクには、我慢ならないのである(笑)

それからもう一つ、このレコードには、この記事に付したサブタイトルのような、アナログレコード・コレクターの心を動かす事情もある。
(「心を動かされない人は真のアナログレコード・コレクターじゃない」とまでは言いません 笑)

そんなわけで、今日の記事になったわけだ。


では、USオリジナルのバリエーションを見てみよう。
(ボクが所有しているのは2枚だけなので、Discogs等でいろいろ確認もしていますが、他にもバリエーションがあるかもしれません。「違うのを持ってるぞ」という方はお知らせいただければ幸いです。それから、「オリジナルはカナダ盤だろ~」というご意見もあるかと思いますが、カナダ盤もMASTERDISKでマスタリング&カッティングが行われていますし、現時点で私は所有していませんので、ここではUSオリジナルの初盤を確認し、いずれカナダ盤を入手したときにその位置づけについて考えたいと思います。)


ジャケットのバリエーション


ジャケットのバリエーションについては、ほとんどの人が気づいていると思うのだが、言及されているのを見つけることができなかった。

このレコードのジャケットは二種類ある。


20200921-01.jpg


おわかりだろうか?
上端の"BRYAN ADAMS"というアーティスト名と下端の"RECKLESS"の文字の大きさが違うのである。

わかりやすいように、上端部分を拡大して並べてみよう。


20200921-02.jpg


この文字大ジャケットと文字小ジャケット、まずは、前後関係があるのかそれとも地域差なのかが問題だ。

ボクの持っている盤は、文字大ジャケットにはモナーク工場(Monarch Record Mfg. Co)プレスの盤(マト末尾MでMRが刻まれている)が、文字小ジャケットにはRCAインディアナポリス工場(RCA Records Pressing Plant, Indianapolis)プレスの盤(マト末尾RCAでIが刻印されている)が入っていたので、地域差という可能性もないわけではない。

しかし、地域差ではないと思う。
というのも、このレコードのUS盤には、Discogsを見ると、モナーク工場プレスとRCAインディアナポリス工場プレスのほかに、エレクトロサウンド中西部工場(Electrosound Group Midwest, Inc)プレス(マト末尾ESでEMWが刻まれている)が存在するが、RCAインディアナポリス工場プレスとエレクトロサウンド中西部工場プレスいずれにも文字大ジャケットと文字小ジャケットが存在するからである(モナーク工場プレスに文字小ジャケットが存在するのかは不明)。

つまり、このジャケットの違いには前後関係があることになる。
では、どちらが先なのか?

ずばり文字大ジャケットが先だと思う。

まず、上端部分を拡大して並べた写真をもう一度よく見てほしい。
文字小ジャケットは、単に文字を小さくしただけではない。
"BRYAN"のほうの文字間(狭い)と"ADAMS"のほうの文字間(広い)をかえるというこだわりぶりである。
確かに、デザイン的にはこれが良い。
つまり、こちらが完成形だと思う。

それから、US盤にひと月弱遅れて11月28日にリリースされた日本初盤は文字大ジャケットだ。
日本盤の場合、本国でのジャケット変更があっても変更されずにずっと初盤ジャケットのままのことも多いが、このレコードの場合は、アルファレコード/ワーナー・パイオニア時代にすでに文字小ジャケットに変更されている。
その後、キャニオンから再発されたときは、当然文字小ジャケットである。

いつの時点で文字大ジャケットから文字小ジャケットに変更されたのかは不明だが、初盤は文字大ジャケットというのは間違いないんじゃないかと思う。


インナースリーブのバリエーション


このレコードには、歌詞が印刷されたインナースリーブが付属している。
さらに、ビデオの注文用フライヤーも附属していることがあるが(ボクのは文字小ジャケットのほうに入っていた)、ビデオの発売時期によっては初盤にはついていなかったかもしれない。


20200921-03.jpg


このインナースリーブが違っている。
違っている部分を拡大して並べてみよう。


20200921-04.jpg


向って右が文字大ジャケットに入っていたもの(初回IS)で、左が文字小ジャケットに入っていたもの(セカンドIS)だ。

まず、"All songs written"で始まるパラグラフが2行から3行に変更されている。
これは特に追記があるわけではないので、[コピーライト]1984の前に改行を入れ忘れたのを修正しただけだろう。

次に、"Crew"のところだが、最後の"Halsey"にスペルミスがあったので"Hallsey"と正しいスペルに修正されている(エルが一つ増えている)。
その下の行も ”Road Keyboards"とされていたのが"Tour Keyboards"に修正されている。

"Thank you"で始まる謝辞のパラグラフでは、対象が追加されたので、2行から3行になっている。

以上、文字大ジャケットに入っていたものが初回ISで、文字小ジャケットに入っていたものはセカンドISであることは明らかだろう。


レーベルのバリエーション


このレコードにはカスタム・レーベルが存在する。
文字小ジャケットには、カスタム・レーベルを使用した盤が入っていた。


20200921-05.jpg


それに対して、A&Mの通常レーベルを使用した盤も存在する。
文字大ジャケットには、この通常レーベルを使用した盤が入っていた。


20200921-06.jpg


カスタム・レーベルを使用したモナーク工場プレスは確認できなかったが、RCAインディアナポリス工場プレスとエレクトロサウンド中西部工場プレスには、カスタム・レーベル盤と通常レーベル盤のいずれも存在するので、これまた地域差ではなく前後関係があると考えられる。

カスタム・レーベル使用と通常レーベル使用の前後関係としては、当初はカスタム・レーベルでリリースしていたが、再発の際にコスト削減で通常レーベルを使用したという可能性もあるのだが、このレコードの場合は、その可能性はありえない。

通常レーベル盤のほうが、初回IS付きの初盤文字大ジャケットに入っていたということもあるが、何よりも、通常盤レーベルがモナーク工場でプレスされているというのが決定的である。
後述するように、モナーク工場が再発盤をプレスできるわけがないんである。

とはいえ、このカスタム・レーベルへの変更は相当早い時期に行われたと思われる。
何故なら、ひと月弱遅れでリリースされた日本盤ですでにカスタム・レーベルが使用されていたからである。

レコードのプレスは、リリースのひと月くらい前から行われるだろうから、もしかしたらその初回プレスの過程でレーベル変更が行われ、リリース日には、通常レーベル盤とカスタム・レーベル盤が両方並んでいたという可能性もある。

そうだとしても、初盤レーベルは、カスタム・レーベルではなく通常レーベルだということになると思う。


カッティング・エンジニアのバリエーション


上述したように、また拡大したインナースリーブ写真のクレジットでもわかるように、このレコードはラディックがマスタリングをしているが、カッティングまでラディックが行ったものは発見できなかった。

ボクが所有しているレコードでは、カスタム・レーベルのマトRCA3/RCA3が両面ともMASTERDISK BKでビル・キッパー(Bill Kipper)カッティング、通常レーベルのマトM2/M1のほうは両面ともMASTERDISK刻印のみでサインがないのでカッティング・エンジニア不明である。


20200921-07.jpg
(RCA3/RCA3のMASTERDISK BK刻印。M2/M1のMASTERDISKのみはレーベル写真の横にしっかり写っているので割愛 笑)


で、どちらが先かだが、これについてはどっちが先かというのはないんじゃないかと思っている。
もともとマスタリングまではラディックがやって、ラッカー・カットは若いのにまかせたということなんだろうし、カナダまで含めて相当数のラッカー・カットなので、複数の人間にまかせたというだけなんじゃないかと思うのである。

Discogsで確認する限りでは、RCAインディアナポリス工場とエレクトロサウンド中西部工場にはビル・キッパーがカットしたラッカーが、モナーク工場には別のエンジニアがカットしたラッカーが送られたということのようだ。

ちなみに、うちにある二枚では、BK盤ほうは腰高で音が被るのに対して、サインなし盤のほうは低域が沈みこんで見通しがよくなり、好印象だ。
とはいえ、プレス時期がサインなし盤のほうがかなり早いと考えられるので、スタンパーのへたり具合も影響している可能性があり、一般的にBK盤のほうがダメとも言い切れない。

いずれにせよ、BK盤でもサインなし盤でも、どちらも初回盤でいいと思う。


モナーク工場の最後の輝き


ボクの持っている通常レーベル盤は、モナーク工場プレスである。


20200921-08.jpg


MR Δ 26627というモナーク工場産であることを示すメッキ処理番号が刻まれている。
そして、これが特に重要なことなのだが、モナーク工場プレスであれば、初期盤であることの証なのである。

なぜなら、モナーク工場は、1985年1月にはエレクトロサウンドに吸収され、その長い歴史を閉じたからである。
1985年1月からは、エレクトロサウンド・ロサンジェルス(Electrosound Los Angeles)という名前で新たな一歩を踏み出している。

つまり、1984年11月5日リリースの”RECKLESS"については、10月からプレスが始まったとして、モナーク工場プレスであれば、翌1985年の1月までの4か月(1月つまり新年に再出発ということは、月頭から再出発の可能性が高いと思われるが、その場合は、84年12月までの3か月)の間にプレスされたものということになる。

それ以降であれば、送り溝にはELAという文字が刻まれるはずだ。

1945年創業の長い歴史の最後に、"RECKLESS"という大ヒットアルバムの初回盤をプレスしたという事実も、「最後の輝き」と呼ぶのに値するものだと思うが、ボクが「最後の輝き」というのには別の意味もある。

この時期のA&Mのレコードは半透明盤で、RCAインディアナポリス工場プレスの盤でも十分に透けるのだが・・・・


20200921-09.jpg


モナーク工場プレスの盤はさらに透ける。
光に翳さなくても、ちょっと明るいところなら、反対側が透けて見えるくらいである。
だから、光に翳すと、透けるというより、黄金に輝く。


20200921-10.jpg


まさに「モナーク工場の最後の輝き」なのである(笑)

アトランティック盤のオリジナルを探している人なんかは、誰かさんの影響で(笑)跨いで通ることも多いモナーク工場プレスだが、ボクはアトランティック盤のモナーク工場の音も好きだ。
A&Mに関しては、モナーク工場は昔からのメイン工場である。

そんなわけで、モナーク工場が「最後の輝き」を見せるこの"RECKLESS"を聴いていると、なんだかこみ上げるものがあるのだ。

ありがとう!
モナーク!

コメント(6) 
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コメント 6

koss

私のレコード確認しました。
小文字ジャケ、エレクトロサウンド中西部工場(Electrosound Group Midwest, Inc)プレスでした。
SPO-5013-A-ES6 MASTERDISC BK
SPO-5013-B ES3 1 1 1 MASTERDISC BK
インナーは修正後の3行でした。
貴重な検証ありがとうございます。

これからも楽しみに拝見させていただきます。



by koss (2023-03-02 13:17) 

想也

kossさん

このレコードは、いまでも安いと思うので、ぜひモナーク・プレスも手に入れて、聴き比べてみてくださいませ(^^)

by 想也 (2023-03-02 23:19) 

koss

想也さん
ありがとうございました。

モナーク・プレス手に入れて聴き比べてみます。
BKではなくELAでした。

また、楽しい記事楽しみにしております。
by koss (2023-03-03 12:08) 

想也

kossさん

BKでなくELAというのは、BKのサインがなかったってことですかね?

ELAというのは見たことないんですが、Emwではないんでしょうか?
エレクトロサウンドのプレスには、手書きでEmwと入るので。
それはエンジニアではなくて、プレス工場を表すものです。

by 想也 (2023-03-03 19:45) 

koss

重ね重ねすみません。
筆記体で書いていたので確かに、Emwでした。
by koss (2023-03-04 11:36) 

想也

kossさん

いえいえ。
ご確認ありがとうございました(^^)

by 想也 (2023-03-05 23:27) 

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