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ただ、切なかった [思い出]

「恋仲」を観ながら思い出していた彼女は、NIKIIEさんの「紫陽花」を聴いていてふっと思い浮かんだ彼女である。

前にも書いたけれど、もう7、8年くらい前のことになるだろうか、とある映画を観たことをきっかけに、あの頃の彼女の気持ちを推測したことがある。


映画を観ながら、ボクは、ずっとずっと昔の、もうまったく忘れていた遠い記憶を思い起こしていた。
 
正確に言うなら、記憶の断片が一つまた一つと思い浮かんできて、それがやがてひと繋がりになって、それまで考えたこともなかった「答え」を浮かび上がらせてくれた。

もちろん、その「答え」が正しいのかどうかは、ボクにはわからない。


サオリと仲良くなったのは、中学3年のときだった。
一学年130人程度しかいない田舎の小さな中学で、ほぼ全員が同じ小学校出身だったのに、ボクはそれまでサオリのことは知らなかった。
いや、顔は知っていた気はするけれど、小学校から中学2年まで一度も同じクラスになったこともなく、少なくともボクの中に、それまでサオリという女の子はまったく存在していなかった。

はじめて話をしたのは掃除の時間だった。
窓を拭いていたボクに近寄ってきたサオリは、ぐっとボクの耳元に顔を近づけて、ドキっとするようなことを質問してきた。それがどんな質問だったかは覚えていないのだが、ドキッとしたことだけは鮮明に覚えている。
もしかしたら、質問の中身ではなくって、頬がふれあいそうなくらいにぐっと耳元に顔を近づけられたことにドキっとしたのかもしれないけれど、それはもはやあやふやだ。

どういういきさつだったのかまったく記憶していないのだが、ボクとサオリは、あっという間に仲良くなった。いや、正確に言えば、ボクとサオリを含む6人ほどの男女混合の仲良しグループができていた。そのグループで、サオリの家に遊びに行ったこともあるし、グループの他のメンバーの家に集まったこともある。まあ、いつもそうやって集まっていたってわけではなくて、中学3年の1年間にそんなことは数度だったけれど。

それでも、中学3年のときのことを思い出すと、いつもサオリがそばにいたような気がする。

もっとも、ボクにはその頃他に好きな女の子がいたし、サオリのことを、特に女として意識したことは一度もなかった。
そして、サオリのほうも、ボクのことを男として意識してはいないと信じていた。

というか、同じグループの中にHというやつがいて、グループの中では、サオリはHが好きってことになってた気がする。Hとサオリは家が近所で、幼馴染で、昔からサオリはHが好きなんだって話だったような・・・・


卒業式の帰り道のことだ。
いつものグループでつるんでいたのだけれど、いつの間にか、ボクとサオリは二人でグループから離れていた。
「私が好きなのってH君だと思ってたでしょ?」
サオリが突然、そんなことを言い出した。
「違うの?」
と、ボクは聞き返した。
「違う。ホントは誰が好きだったか知りたい?」
そう言ったときのサオリの表情をボクはよく覚えていないけれど、たぶん、いつものように、クリクリっとしたまあるい目でまっすぐにボクを見ていたんじゃないかと思う。
ボクは、確か軽い調子で、「教えろ!」とか言っていた。
そのあとサオリは、ちょっと間をおいて、それから、はじめて話をしたときと同じように、頬がふれあいそうなぐらいにぐっと耳元に顔を近づけた。
サオリが口を開くまで、そこでまたちょっと間があった。

「M君だよ。」

サオリは、そう言うと他の仲間のほうに駆け出していった。

Mは学年の中でも1、2を争うイケメンで、女の子にもよくもてるやつだった。だから、サオリがMを好きでも別に不思議はないのだが、正直なところボクはすごく驚いた。いつもあんなにそばにいたのに、Mのことを好きだなんて素振りをサオリがボクに見せたことは、それまで一度だってなかったからだ。
それでもボクは、そのとき単純に、サオリはMが好きだったんだと信じた。


中学を卒業してからのサオリとの思い出は三つしかない。
サオリはお嬢様学校で有名な高校に進学したし、ボクは片道1時間近くもかかる遠くの高校に進学した。
もちろん、何度も町で偶然顔を合わせてくだらないおしゃべりはしたけれど、そんなことは日常的すぎてほとんど記憶に残っていない。


高校に進学したあと、どういういきさつだったか忘れてしまったが、サオリと他に女の子二人とボクの4人で中学に挨拶に行ったことがあった。
その帰りのこと、なぜだか他の二人を残し、ボクは自転車の荷台にサオリを乗せて家まで送っていった。
途中、鉄橋をわたるのに二人乗りじゃ怖かったから、自転車を降りて歩くことになって、しばらく二人で歩きながら話をした記憶はあるけれど、そのときどんな話をしたのかはまったく覚えていない。たぶん、それぞれの新しい高校生活がどんなかって話だったんだと思う。
中学の頃と同じようにじゃれあいながら、たわいもない話をしていたことは間違いない。
ただ、考えてみると、自転車の荷台に女の子を乗せて走ったことは、後にも先にもボクの一生であれがたった一度のことだったと思う。
まあ、大学に入って中型のバイクに乗るようになってからは、当時の彼女をタンデムシートにのっけていたけれど。


高校1年のときのサオリとの思い出がもう一つある。
お嬢様学校で有名なサオリの高校は、文化祭も招待状がないと入れないというところだった。町で偶然会ったとき、サオリは、ボクに4枚だったかの招待状をくれて、友達を誘ってきてくれと言った。
そうはいっても誰を誘えばいいかわからないので、ボクはサオリに誰を誘えばいいか尋ねてみた。そのとき、Mは誘わないといけないかと名前を出したのだけれど、サオリは、Mは誘わなくていいと言った。それで、Hと他に数名の名前を出して、その場でメンバーを決めた。

文化祭の当日は、サオリの友達とボクたち男4人で、まるで合コンみたいだった。とはいえ、その後何の発展もなかったのだけれど。
あとで町で偶然会って話をしていたときに、何故ボクを誘ったのかが話題になったことがあって、サオリの答えは、中学校の卒業アルバムを友達に見せたらボクの写真を見て会いたいって言っていた子がいたので誘った、というものだったのだが、その子があの文化祭の日にあった子のうちのどの子なのかってことは、ついに最後まで教えてもらえなかった。


サオリとの最後の思い出は、ボクの大学の合格発表の翌日のことだ。
今はどうなのかわからないけれど、当時の静岡新聞には大学合格者の名前が載ることになっていた。
その日の朝、唐突にサオリから電話がかかってきた。
「新聞みたよ。合格おめでとう。」
それからしばらく、たわいもない話をして、電話を切った。記憶に残っているのは、サオリが北陸のほうの大学の薬学部に合格して、将来は薬剤師になると言っていたことだけだ。


大学進学で東京に出てから、ボクはあんまり田舎には帰らなかった。帰省したとき、男友達と連絡をとってつるむことはあっても、サオリに連絡をとることはなかった。
だから、あれ以来、サオリには一度も会っていないし、電話で声を聴いたこともない。


記憶の断片をつなぎ合わせていく。
語られなかった想いを想像してみる。もちろん、ボクの独りよがりかもしれない。

サオリは本当にMのことが好きだったんだろうか?
卒業式のあの日、あの帰り道、サオリが言おうとしたのは違うことだったんじゃないだろうか?
卒業後中学に挨拶にいったあの日の帰り道、あの二人はあえてボクとサオリを二人にしたんじゃないだろうか?
サオリがボクを文化祭に誘った理由・・・別にイケメンでもなんでもないボクの写真を見て、会いたいって言った友達なんてホントにいたんだろうか?
中学3年のときから4年間、電話なんて一度もかけてきたことがなかったサオリが、「合格おめでとう」って電話をかけてきたのには、それなりの想いがあったんじゃないだろうか?
二人とも生まれ育った町を離れ、もしかしたらボクたちはもう二度と会うこともないかもしれない・・・だからかけてきた電話?

ボクの独りよがりの想像の産物なのかもしれない。
でも、そんな「答え」が浮かびあがってきて、甘酸っぱい痛みが胸を襲った。

切なかった。

ただ、切なかった。


<この記事は、旧ブログ「君がいる風景」から加筆修正のうえ転載しています。>
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コメント 2

isoshijimi

中学校自体の甘酸っぱい思い出・・・ありますよ。
それなりに(笑)
恋愛関係のないグループ、恋愛関係のあるグループ、いろいろあったな~
それで失敗もあったり(^^)

思い出すと・・・切ないですね。
でも二度と戻ってこないあの時間・・・
by isoshijimi (2015-07-22 09:40) 

想也

isoshijimiさん

isoshijimiさんにもありますか(^^)
こういう思い出って、時間が経つほど大切なものになりますね。
ワインが熟成するように、味わいも深くなります。

by 想也 (2015-07-22 19:57) 

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